研究課題/領域番号 |
17J06281
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
楢崎 遥子 徳島大学, 栄養生命科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝子 / ゲノム / トランスレーショナルリサーチ / リン / 慢性腎臓病 / klotho / ライフステージ / エピゲノム |
研究実績の概要 |
本研究では慢性腎臓病の予防や治療の鍵を握る食事からのリンの摂取に着目している。研究目的は、生体へのリン負荷の高い食品(高PI食品)の摂取頻度を的確に把握できる食事調査方法の開発と、習慣的なリン摂取状況を反映する生体指標の探索により、新しい食事評価手法の確立を目指すことだ。本年度は生体指標の候補である線維芽細胞増殖因子(FGF23)について、習慣的および試験前日の食事との関連性の検討を試みた。 若年健常者93名(男性39名、女性54名)を対象に食事摂取状況を把握するための3種類の食事調査と、その前日にFGF23を観察するための血液検査を行った。食事調査としては、習慣摂取把握のために、PI食事摂取頻度調査票(PI調査票)および自記式食事歴法質問表(DHQ)を、また、血清FGF23濃度測定前日の摂取状況を把握するために、半秤量式食事記録(DR)を用いて、同月の非連続な3日間の食事調査を実施した。評価では、高PI食品と血清FGF23濃度の間に相関係数が認められた場合に、FGF23がそれらの摂取状況の生体指標となりうると結論づけた。 その結果、FGF23と習慣的な食事との関連性については、DHQ、PI調査票の両者に共通して菓子類・飲料との間に正の相関関係がみられ、PI調査票においては「総合点」との間にも正の相関関係が見られたことから、血清FGF23は高PI食品の摂取、特に菓子・飲料の摂取の習慣的な摂取状況を反映できる生体指標となりえることが示唆された。また、DRによる前日の食事からの影響の検討においては、一貫した関係性が見出せなかったことから、FGF23は前日の食事よりも習慣的な高PI摂取状況の生体指標として適切である可能性が見出せた。 これら今年度の研究成果は、同僚の卒業論文としてまとめられた。今後はFGF23以外の生体指標についても、習慣的な高PI食品摂取頻度との関係を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は生体指標の候補である線維芽細胞増殖因子(FGF23)について、習慣的および試験前日の食事との関連性の検討を目指した。 食事摂取状況を把握するための3種類の食事調査と、その前日にFGF23を観察するための血液検査および身体測定を行った。食事調査は、習慣摂取把握のために、PI食事摂取頻度調査票(PI調査票)および自記式食事歴法質問表(DHQ)を、また、血清FGF23濃度測定前日の摂取状況を把握するために、半秤量式食事記録(DR)を用いて、同月の非連続な3日間の食事調査を実施した。その結果、血清FGF23は高PI食品の摂取、特に菓子・飲料の摂取の習慣的な摂取状況を反映できる生体指標となりえることと、FGF23は前日の食事よりも習慣的な高PI摂取状況の生体指標として適切である可能性を見出した。一方で、対象者の人数が多く、食事調査の解析には予想以上の時間や労力を費やすこととなったためや海外渡航のため、FGF23以外の生体指標については解析途中であることなど、計画からの若干の遅れと計画の修正が生じている。また、当初は「ヒトにおけるリン過剰摂取によるα-Klotho遺伝子のエピゲノム変化の同定」を実施予定であったが、より効率的な研究遂行のため検討項目を変更した。しかしながら、これらは最終的な目的達成には支障とならない程度であり、また、本研究の発展を目指した海外渡航での栄養疫学研究も順調に進んでおり、概ね期待通りの進展具合である。
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今後の研究の推進方策 |
高PI食品の摂取頻度とFGF23以外の生体指標との関連についての検討を進める。マウスを用いた同僚による動物試験によって、リン過剰負荷がα-Klotho遺伝子のエピゲノム変化に及ぼす影響を見出し、分子機序の解明を行っている。これらの知見を基にまたヒト試験では、同遺伝子エピゲノム変化の同定を試みる。特に、エピゲノム変化のうちリン過剰摂取によるDNAメチル化の変化に着目した解析を行う。採血と採尿を実施し、それぞれから末梢血管細胞あるいは尿中尿細管落下細胞を採取する。採取した細胞からDNAを抽出し、バイサルファイト処理によりメチル化の違いを塩基配列の違いに変える。次に完全メチル化、完全非メチル化に特異的なプライマーを設計する。そしてバイサルファイト処理後のDNAを鋳型に、完全メチル化プライマー、完全非メチル化プライマー、およびコントロールとしてメチル化の影響を受けない領域を増幅させるプライマーを用いたPCRを行い、PCR産物をアガロースゲル電気泳動する。3種類それぞれのプライマーの増幅パターンを画像解析装置により数値化し、メチル化レベルを、完全メチル化プライマーの増幅産物量をコントロールプライマーの増幅産物量で除すことにより求め、サンプルの対象領域のメチル化状態を比較する。
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