研究課題/領域番号 |
17J06300
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 勇希 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | エキゾチックハドロン / ペンタクォーク / ヘビークォーク有効模型 / ハドロン分子模型 / ヘビークォークスピン対称性 |
研究実績の概要 |
2017年度の研究実施計画は中間子交換ポテンシャルを用いたハドロン分子模型によって、(1)ペンタクォークPc (4380)の崩壊チャネルとの結合を取り入れてその崩壊幅を解析する、(2)Pc (4380)と異なるパリティを持つペンタクォークPc (4450)の質量・崩壊幅を解析し、二つのペンタクォークを同時に説明できる模型パラメータを探る、という二点が大きな研究目標であった。 (1)について、有効模型によるD中間子交換相互作用を構築して実験で観測された崩壊チャネルと結合することで崩壊幅の解析を行い、P_c (4380)の質量と崩壊幅を誤差の範囲で実験を説明できるパラメータの存在を示した。この成果を記した論文は査読付き論文雑誌Physical Review D に掲載された。また研究成果を国内の複数の研究会で口頭発表した。本研究では新たに加えた相互作用の寄与が小さいことを示しており、実験で観測された崩壊モードとは異なる崩壊の寄与が大きいためそれらを実験で調べるべきだと示唆した。 次に(2)の研究を開始する予定であったが、計画を変更しヘビークォーク対称性に基づいてペンタクォークが持ちうるヘビークォークスピン多重項構造について研究した。対称性に基づいて分類することで今後の研究の見通しが立てやすくなると考えた。本研究ではモデルに含まれる結合定数の符号によって異なるスピン多重構造が束縛状態を持つことを指摘した。この研究は現在も進行中であり、2018年度初旬に査読付き雑誌へ投稿し論文として発表する予定である。また既に国内の研究会、および日本物理学会年次大会にて口頭で発表している。 本来2017年度に行う予定であった研究(2)は2018年度に行うことになるが、そこでもヘビークォークスピン多重項構造に基づく分類を考えつつ解析することでスムーズな進行が可能となる見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画にあった二つの目標のうち一つ目である、ペンタクォークPc (4380)の崩壊チャネルとの結合を取り入れてその崩壊幅を解析する、という目標は29年度前半で達成することができた。これまでの研究で用いていたパイ中間子交換ポテンシャルに加え、D中間子交換ポテンシャルを導入することで実験で観測された崩壊チャネルとの結合を可能にした。これによりペンタクォークの質量だけでなく崩壊幅も計算することが出来、妥当なパラメータ領域で実験値を説明しうることを示した。 その後に計画の変更があり二つ目の目標である、Pc (4380)と異なるパリティを持つペンタクォークPc (4450)の質量・崩壊幅を解析するのでは無く、30年度以降に行う予定であったペンタクォークの分類を調べる研究に着手した。この変更は次年度の研究を先取りしただけではなく、本来29年度に行う予定であった研究を今後進める上で、非常に有用なスキルを習得することにも繋がったこと、及び分類を意識しながら研究を進行できるため研究の見通しが良くなったこと、という利点があった。この研究から得られたPcペンタクォークの分類はこれまであまり議論されてこなかった種類の多重項が存在することを示しており、斬新な切り口でペンタクォークの構造に迫ることができた。 そのため、当初の計画からの変更はあったがその結果は計画以上の進展があったと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本来30年度以降に行う予定であったペンタクォークの分類の研究を29年度から着手するという変更が生じた。この研究は30年度も継続することになるが、これは計画変更により29年度に行えなかった後半の研究と同時に進行可能と見込めるため、二つの研究を主軸に進めていく予定である。 30年度の方策として、まずは29年度から継続して対称性に基づくペンタクォークの分類を進める。それと並行して上述の分類を念頭に置きつつペンタクォークPc(4380)とは異なるパリティを持つペンタクォークの研究にも着手する。この研究とこれまで行ってきたPc(4380)の研究結果を合わせて、ハドロン分子モデルによるPcペンタクォークの構造解明を目指す。 また、これらの研究手法を他の量子数を持つペンタクォークに適用したり、同様の分類方法を用いてテトラクォークやヘキサクォークといった違うエキゾチックハドロンに応用したりするなど、理論の拡張を目指して進めていく。
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