当該年度は、言語獲得前後の乳幼児(生後9カ月、12か月、15か月)を対象にした音と意味の結びつきの獲得過程を評価する実験および成人を対象にした音象徴と言語学習の関係を評価する実験を行った。視線の動きだけでなく手伸ばし行動にも見られる乳幼児の好ましい方を選択するという傾向を利用し、各刺激に対する乳幼児の手伸ばし行動を比較した。 被験者である乳幼児は母親の膝の上で抱きかかえられ、輪郭の異なる2種類の物体に視線を向けるよう求められた。物体刺激の呈示に併せて音刺激がスピーカーから呈示された。物体刺激は輪郭が異なる乳幼児の手のひら程度のサイズの物体とし、音刺激には丸みと結びついていると報告されている日本語単音節“a”およびとげとげしさと結びついていると報告されている日本語単音節“i”を用いた。 結果は、9か月と12か月は物体刺激と音刺激それぞれから想起される印象が一致する方への選好性を示し、15か月はそれぞれから想起される印象が一致しない方への選好性を示した。これより、日本語単音節の場合は多くの乳幼児で初語が表出される生後12か月前後に選好性が変化することが示唆された。これは昨年度の視線計測実験の結果と同様の傾向であり、乳幼児における音象徴と言語発達の関係が言語の表出時期に変化することが示唆された。 成人を対象にした音象徴と言語学習の関係を評価する実験では、輪郭が異なる図形と聞き馴染みのない単語の組み合わせを学習させた。学習の組み合わせは図形と言葉それぞれから想起される印象が一致しているグループと一致していないグループ、組み合わせがランダムなグループの3つがあった。結果としては、一致グループの学習率が最も高く不一致グループとランダムグループの学習率は同程度であった。このように、音象徴が未知単語の言語学習に影響を与えることが示唆され、さらにこの学習がある程度維持されることが確認された。
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