研究課題/領域番号 |
17J06356
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
三好 英輔 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 材料組織 / 粒成長 / 粒界物性 / フェーズフィールド法 / 分子動力学 / GPGPU |
研究実績の概要 |
本研究は,フェーズフィールド(PF)法によるメゾスケール粒成長計算を軸に,分子動力学(MD)法による原子計算,GPU汎目的計算技術を併用することで,定量的材料組織予測の実現と冶金学的諸現象の解明を目指すものである.初年度である平成29年度は,等方性粒界物性の下での理想的粒成長現象の大規模PF解析を行うとともに,PF法とMD 法とのブリッジング計算手法を開発した. 理想粒成長に関する研究では,東京工業大のスパコンTSUBAME上で多数のGPU を並列化することで,三百万以上の結晶粒を対象とした超大規模PF計算を実施し,理想粒成長の統計的側面(粒径分布,粒形状分布など)を詳細に解析した.その結果,定常状態における理想粒成長の統計的ふるまいは,よく知られたHillert理論による予測から大きく乖離することが明らかとなった.また,Hillertの用いた仮定を排して理論を一般化することで,粒成長過程の高精度な記述を可能とした.さらに,理想粒成長における三次元組織と切断面上組織の関係を精査し,断面観察から三次元の組織情報を推定する立体解析法を構築した. PF-MDブリッジングの研究では,MD凝固計算より得られた原子配列情報をPF粒成長計算用の初期構造へと変換する手法を開発した.これにより,計算効率に優れるPF法,自発的核生成を表現可能なMD法の両者のメリットを相補的に活用する粒成長予測が可能となった.また,提案手法を用いてMD法とPF法とで同一初期構造からの粒成長計算を行い,結果を直接比較することでPF法の課題を検討した.その結果,両計算における粒成長挙動は後期段階において良好な一致を示す一方,初期のキネティクスには差異が認められた.今後,より詳細な比較を通じて差異の原因を抽出し,PF モデルにフィードバックすることで,粒成長の全期間にわたる定量的・高効率な予測が実現可能と考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた粒界物性値評価については,具体的な計算の実行には至らなかったものの,その技術的基礎となるMD-PFブリッジングを高精度に行える手法の開発に成功した.この成果は国際誌に論文として投稿中である.並列GPU計算による粒成長研究については滞りなく完了し,世界最大のPFシミュレーションを通じて理想粒成長現象の正確な定常挙動を初めて解明するなど,非常に有意義な成果を得た.また,結果の理論的解釈や立体解析法の構築では当初の予想を超えた成功を収め,国内外の学会発表における複数の受賞,Nature系列誌への論文掲載 [E. Miyoshi et al., NPJ Computational Materials, 3 (2017) 25] など,高く評価されている.以上の点から,研究全体としての進展状況はおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に構築したMD-PFブリッジング手法に基づき,粒界物性値データベースの構築を最優先課題として推し進める.具体的には,二結晶系の粒界移動計算をMD法とPF法とで同一条件の下に行い,データ同化によりPF計算用の粒界物性値(エネルギー・易動度)を同定する.この作業を,二結晶の方位関係を変化させてスパコンTSUBAME上で系統的に並列実行し,方位差と面方位に依存した異方性粒界物性を効率的にデータベース化する.また,並行してPFモデルの更なる高精度化にも取り組み,上記の粒界物性データベースを正確に反映したPF粒成長計算を可能とする.その際,PFモデルの計算精度は基礎式に含まれる各項の関数形の組み合わせに依存するため,さまざまな組み合わせに対してプログラミングと精度評価を行い,最適なモデルを選定する.
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