研究課題/領域番号 |
17J06368
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
杉本 温子 京都薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | KSHV / プロテオミクス解析 / 溶解感染 |
研究実績の概要 |
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)はEBVと同じく、γヘルペスウイルス亜科に属する。世界中のエイズによる年間死者は300万人に達し、収束する気配はない。その死因の多くはカポジ肉腫等の日和見感染症である。また、臓器移植の増加に伴い、KSHV感染ドナーが提供するKSHV汚染臓器を介したレシピエントの新興感染とカポジ肉腫発症という新たな問題が生じている。しかしながら、KSHV感染症には有効な治療薬がない。しかし、KSHVでは溶解感染に関わる因子はほぼ知られておらず、KSHV溶解感染機構の解明のためにはKSHVの溶解感染に中心的役割を果たす因子を発見することが急務である。 本年度の研究において、このように関連する因子が同定されていないためにKSHV溶解感染機構が解明されていないという問題を解決すべく網羅的プロテオミクス解析を行い、KSHVが溶解感染へ移行する際に発現量の変化する因子を網羅的に探索した。その結果、潜伏感染細胞と溶解感染細胞で発現が変化する30個のKSHV由来のウイルスタンパクを同定することに成功した。また、同様のプロテオミクス解析の手法を用いることでウイルス性因子だけでなく、60個以上の宿主性タンパク質を同定した。中でもユビキチン様タンパク質(UBL)であるFAT10およびISG15に関連するタンパク群が顕著に発現増加することを発見した。特にFAT10について解析した結果、FAT10関連タンパク質のノックアウトにより、KSHVの粒子形成が顕著に低下した。また、溶解感染時のFAT10の局在について観察した結果、ゴルジ体に局在することを確認した。これらのことからFAT10はKSHVの粒子形成に関わる可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の年次計画では、1)プロテオミクス解析のための条件検討およびサンプル調整、2)プロテオミクス解析を行う予定であった。これまでのところ、KSHV感染細胞であるBCBL1およびiSLK219細胞を用いて溶解感染を誘導させ、プロテオミクス解析を用いて十分目的の解析が行うことができることを確認している。さらに、生化学手法を用いて溶解感染誘導を確認した後、回収条件を決定した。このため、1)プロテオミクス解析のための条件検討およびサンプル調整は完了している。 本年度後半にKSHVとEBVの溶解感染を誘導したのちに経時的に回収したサンプルを用いてプロテオミクス解析を行い、タンパク質発現プロファイルを作製する予定であったが、出産・育児にかかわる採用の中断を行うため、これらの計画は次年度以降に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果により、プロテオミクス解析を用いて潜伏感染細胞と溶解感染細胞で発現が変化する30個のKSHV由来のウイルスタンパクを同定することに成功した。現在、KSHVの溶解感染時におけるタンパク質発現プロファイルを作製すべく、qPCRアレイを用いて変化率の大きいタイムポイントを決定した上で溶解感染誘導後、経時的に回収したサンプルを用いてプロテオミクス解析を行っている。また、さらにプロテオミクス解析の感度を上げるべくオルガネラを分画したサンプルも試してみる予定である。今後はKSHVと同じくγヘルペスウイルス亜科に属するウイルスであるEBVについても同様にサンプルを作製し、EBVの溶解感染時におけるタンパク質発現プロファイルを作製した上でKSHVのプロテオーム解析結果と比較する予定である。その後、EBVのタンパク質発現プロファイルと比較して特異的な発現パターンを示すKSHV因子について、さらに詳細な解析を行い、特に重要な因子についてはBacによる遺伝子欠損KSHVを作製し機能解析を行う。 また、プロテオミクス解析によって溶解感染時に顕著に発現が変化する宿主因子を発見することに成功したために、ウイルス由来因子だけでなく、宿主因子についても解析を行う。今後は、ユビキチン様タンパク質およびその関連タンパク質の発現がKSHV溶解感染にどのような役割を果たすのか引き続き解析を行う予定である。さらに、CRISPR/Cas9によるユビキチン様タンパク質やその関連タンパク質ノックアウト細胞を樹立することで、これら細胞性因子のKSHV溶解感染に関わる機能解析を実施する。
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