研究課題/領域番号 |
17J06377
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉本 悠 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質-タンパク質間相互作用 / 静電相互作用 / 粗視化シミュレーション / ポアソン・ボルツマン方程式 / barnase / barstar |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タンパク質-タンパク質間相互作用(PPIs)を静電相互作用に着目し、分子シミュレーションを用いてその機構を解明することである。平成29年度は、ターゲットPPIsとして静電相互作用が結合に強く関与しているbarnase-barstarのペアを用いて研究を推進した。 本研究では、2つのタンパク質の結合という長いタイムスケールの現象を追跡するために、複数の原子を一つのグループとして扱い計算量を削減した粗視化シミュレーションによる計算を行った。長距離静電相互作用の役割を明確にするために、タンパク質が作る電場が存在しない場合と存在する場合の両方でシミュレーションを行った。解離状態から1 マイクロ秒のシミュレーションをそれぞれ600回行ったところ、結合回数は電場が存在しない場合21回、存在する場合28回であった。初期に接触するアミノ酸残基を調べたところ、電場が存在しない場合、barnaseのあらゆる方向からbarstarが均等に衝突していた。一方、電場が存在する場合、barnaseの結合界面の反対側にbarstarが衝突する頻度が大きく減少した。電場が存在することにより結合回数が増加した原因の一つは、結合界面の反対側への衝突頻度が減少したためと考えられる。しかし、電場が存在することにより正しい結合位置とは異なる位置に多く衝突し、その位置にトラップされてしまうことも分かった。これより、解離状態の2つのタンパク質が拡散により衝突する過程において、長距離静電相互作用により正しい結合位置にガイドされることはない、ということが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は基礎技術の習得に重きを置いており、分子動力学法、モンテカルロ法、自由エネルギー計算、粗視化シミュレーション等、一通りの分子シミュレーションを行うことが可能となった。またタンパク質が作る電場を計算するために、ポアソン・ボルツマン方程式を数値的に解くプログラムを自作した。本プログラムは周期境界条件で計算可能である。 PPIsに関する研究では、barnase-barstarのペアについて、タンパク質が作る電場が存在しない場合と存在する場合の両方で粗視化シミュレーションを行い、拡散過程における静電相互作用の役割を明らかにした。さらに、PPIs研究における粗視化シミュレーションの限界を確認し、次ステップへの方向性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
Barnase-barstarのペアにおいて、計算量を削減した粗視化シミュレーションを用いたとしても、現実的な計算量でタンパク質の結合過程の全てを再現することはできないことが判明した。また粗視化シミュレーションの結果は、静電相互作用は拡散過程ではなく、タンパク質衝突後に正しい結合状態に至る過程で重要な役割を果たすことを示唆していた。そこで今後は、効率よくタンパク質衝突後の過程を再現するために、全原子によるWeighted ensemble法を用いた計算を行う予定である。そして、ここで得られた多くの構造からタンパク質表面付近の自由エネルギー地形を作成し、静電相互作用の役割を考察する。
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