研究課題/領域番号 |
17J06391
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 千恵子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 自家不和合性 / アブラナ科 / シグナル伝達 / カルシウムイオン / Ca2+チャネル / GLR / pH |
研究実績の概要 |
アブラナ科植物の自家受粉では,花粉由来のペプチドSP11が柱頭の乳頭細胞膜上にある受容体SRKに結合し,その下流で細胞内Ca2+濃度の低下を含む不和合反応が起こる.その結果,花粉の発芽・伸長が阻害される.本研究は,不和合反応におけるシグナル伝達経路の解明を目的とする.植物材料の準備と実験の一部については受入研究室の方々の協力を得つつ,研究を行った. 不和合反応ではたらく主なCa2+チャネルの有力候補だったグルタミン酸受容体(GLR)の四重変異体を作出した.自家受粉の結果,その変異体では自家不和合性は喪失しなかった.不和合反応に関与するGLR以外のCa2+チャネルが存在する可能性が浮上したため,別のCa2+チャネル遺伝子に着目し,多重変異体を作出した.その変異体の解析により,不和合反応にはたらく新たなCa2+チャネルが発見される可能性がある. 乳頭細胞由来のプロトプラストにSP11を添加する系を用いて,Ca2+濃度とpHの変化を観察した.このとき,Ca2+モニター系とpHモニター系を融合させて両因子を同時に測定できる系を確立した.具体的には,各センサータンパク質が発現しているプロトプラストを混合し,スライドグラスに展開後マイクロマニピュレーターで細胞を移動させて同視野に2種類の細胞を配置する.この同時モニター系の確立により,2つの変化が起こる順序を厳密に調べることが可能になった.観察の結果,自家不和合反応時のCa2+とpH の変化はほぼ同時だった. SRKの下流で機能する新規因子の探索のために,AtS1pro:SRKb-eCFP発現体を作出した.植物材料(乳頭細胞)のサイズの小ささと効率的な採取の難しさを考え,まず共同研究先(海外)で目的タンパク質の濃縮と検出に関する技術指導を受け,技術改善に成功した.これはSRKb-eCFPの共免疫沈降実験に応用可能である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,不和合反応時のCa2+とpHの変化を同時にモニターする系の確立に成功した.また,当初の計画にはなかった新たなCa2+チャネル候補遺伝子の変異体取得に至った.さらに,SRK下流の新規因子探索のための植物材料の準備と技術改善を進めた.これらのことから,ある程度の進展はあったと言える.ただし,当初計画していたpHの変化を抑制する阻害剤の特定とその関連遺伝子変異体の単離や,SRK下流の新規因子同定には至らなかった.また,当初の計画の前半部分で,シグナル伝達経路において一般的に重要だと考えられる核酸(主にDNA)―タンパク質間相互作用を,蛍光寿命顕微鏡法(Fluorescence Lifetime Imaging; FLIM)で検出する方法の確立を目指したが(海外での共同研究),解析中の因子(未発表)のGFP融合型タンパク質の蛍光が低いためにうまくいかなかった.これらの結果を総合的に見て,進歩状況は「やや遅れている」であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,以下の「1.膜脱分極経路の検証」および「2.SRK下流で機能する新規因子の探索」を行う.
1.膜脱分極経路の検証:乳頭細胞プロトプラストのCa2+濃度・pH同時モニター系を用いて,不和合反応時にどちらの変化が先に起こるかを調べる.今年度の研究から両者がほぼ同時に起こることが分かったため,より短時間間隔での撮像や阻害剤の使用を検討する.特に,カルシウムイオンチャネルの阻害剤処理によりカルシウムイオン流入を抑制したときに不和合反応時のpHの変化が見られるかを調べる.膜電位マーカーを用いて,同様の実験を行う.それらの結果から,カルシウムイオン流入とpH変化/膜脱分極の関係を考察する.不和合反応時のpH低下に影響を与える阻害剤を探索し,上記同様の実験を行うとともに,標的因子の変異体を単離・解析する.
2.SRK下流で機能する新規因子の探索:SRK-HaloTag発現体およびSRK-CFP発現体の乳頭細胞由来の懸濁液を用いてイムノブロットを行い,タグ付きSRKの発現がより高い系統を選抜する.選抜した系統を用いて,人工的に自家不和合反応を誘起し,乳頭細胞(柱頭またはプロトプラスト)を大量に回収して,免疫沈降実験に供する.免疫沈降産物の質量分析によりSRK相互作用因子を新規に同定し,同定した因子の機能解析を行う.
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