アブラナ科植物の自家受粉では、花粉由来のペプチドSP11が柱頭の乳頭細胞膜上にある受容体SRKに結合し、その下流で細胞内へのカルシウムイオン(Ca2+)流入を含む不和合反応が起こる。結果として花粉の発芽・伸長が阻害されるが、Ca2+流入から花粉の発芽阻害に至る経路はほとんど不明である。本年度は、Ca2+流入における膜脱分極経路の検証を目指し、不和合反応時のCa2+とpHの変化について解析を行った。
SRKが発現している乳頭細胞プロトプラストの懸濁液にSP11を加えることで、不和合反応が誘起できる。昨年度までに、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)をYellow Cameleon 3.6、細胞内pH(pHi)をClopHensorで検出する[Ca2+]iとpHiの同時モニター系を確立した。本年度は、薬剤処理を通じて不和合反応における[Ca2+]i上昇とpHi低下のどちらが先に起こるかを調べた。非NMDA型グルタミン酸受容体のアンタゴニストであるDNQXを処理した結果、DNQXの濃度依存的に [Ca2+]iの上昇度合いが減少する傾向が見られたが、pHi低下はコントロール区の場合と同様に起こった。カルシウムチャネル阻害剤の塩化ランタン(LaCl3)やカルシウムキレート剤のBAPTAを処理した結果、[Ca2+]i上昇は完全に抑制されたが、pHi低下は通常通り引き起こされた。これらの結果から、自家不和合反応におけるpHi低下は[Ca2+]i上昇の上流で、あるいは独立経路で起こることが示唆された。自家不和合反応のpHi低下を抑制する薬剤は探索中である。
pHの検出に使用したClopHensorは、塩化物イオン(Cl-)も検出可能である。画像を再解析した結果、自家不和合反応において[Ca2+]i上昇および細胞内pH低下と同じタイミングで細胞内Cl- 濃度も低下していることが見いだされた。
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