研究課題
本年度の研究目的である「生体分子の放射線損傷における液体の水分子の役割」を解明するために以下の研究を実施した。生体分子として構造の異なる3種類のアミノ酸(グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン)を用いて、水溶液と気相の生体分子の照射実験との比較から、生体分子の損傷は、生体分子の周囲に存在する水分子によって抑制されることを明らかにした。水溶液と気相のアミノ酸分子への照射実験から、水溶液と気相で共通する結果として、高速重イオン照射したアミノ酸分子の解離は、アミノ酸分子内のC-Cα結合が最も切断されやすいことが分かった。気相標的の場合は、解離していない分子イオンの強度に比べて分解片の強度が高いことが分かった。一方、水溶液標的の場合は、原子状分解片が観測されなかった。1つのアミノ酸分子に付与されるエネルギー量をCore-and-Bondモデルを用いて計算すると、分子の分解度合いと1分子に付与されたエネルギー付与量には相関があることが分かった。気相標的の照射実験における分子の分解度合いとアミノ酸1分子に付与されたエネルギー付与量との関係を用いて、水溶液中でアミノ酸1分子に付与されたエネルギー付与量を求めた結果、気相の場合に比べておよそ半分に減少することが分かった。つまり、液体環境においては生体分子の解離が抑制されることが明らかになった。損傷の抑制の要因として、生体分子の周辺に存在する水分子へのエネルギー分散であると推定し、水溶液中でアミノ酸1分子に付与されたエネルギー付与量の値とアミノ酸分子への水分子の配位数から水1分子に分散したエネルギー量を算出すると、およそ6.5 eVとなった。研究の技術面での進展を図るために実験装置の改良に取り組み、液体の照射実験を行う真空散乱槽の真空度を良くするために、クライオポンプを自ら設計し従来の真空度に比べておよそ2桁向上させることに成功した。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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The Journal of Chemical Physics
巻: 147 ページ: 225103~225103
10.1063/1.5009367