アルツハイマー病(AD)は、高齢化に伴い世界的に患者数が急増している認知症である。ADは無症候の内に進行し、認知記憶障害が現れる段階ではすでに神経細胞死が進んでいるため、早期診断が重要である。そのため、健康診断などでのマススクリーニングによりAD患者を早期に発見し、精密検査の前段階で活用できる診断方法の確立が重要である。本研究の目的は、従来よりも簡便で患者への負担が少なく、高精度なADの早期診断方法を確立することである。 本研究では、ADの発症機構に関連するバイオマーカーとして「p3-Alcα」というペプチドに着目し、AD診断への有用性を培養細胞およびヒトサンプルを用いて検証した。細胞系においては、γ-secretaseに対する直接的な活性修飾作用および膜小胞輸送阻害によりp3-Alcαが増加したことから、p3-Alcαは細胞内のγ-secretaseの切断変化を受け変動することが明らかとなった。またAD患者において、脳脊髄液中のp3-Alcα分子種が健常人に比べ有意に増加していることを明らかにした。更に精密検査の前診断として活用することを目指し、より簡便に採取できる血液からのp3-Alcαの抽出に成功した。また複数の抗p3-Alcα抗体を組み合わせることで高感度なサンドイッチELISA系を確立した。このサンドイッチELISAにより、脳脊髄液および血液中から抽出した微量なp3-Alcαを簡易的に測定できることを示した。さらにこの血液診断の有用性を示すため、血中p3-Alcα値と患者の認知機能が相関関係にあることを示した。今後は生化学的解析および多検体の測定により、p3-Alcα増加の生理的意義やAD診断への有用性を実証し、生化学的診断法としての普及を目指す。p3-Alcα測定により現在開発中の治療薬が有効な患者を選別できれば、AD個別化医療に活用でき、ADの早期発見と先進治療に大いに貢献することが期待される。
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