研究課題/領域番号 |
17J06579
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研究機関 | 東京大学 |
特別研究員 |
遠藤 健一 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 金属錯体 / キラリティ / 不斉触媒 / 金属中心キラリティ |
研究実績の概要 |
昨年度は、両親媒性配位子を用いた両親媒性扇形二核錯体の自己集合による配位子空間の構築を達成した。本年度は、この配位子空間を構成する二核錯体の構造に着目した。各金属中心は四面体型四配位構造をとっているが、非対称な三座配位子の配位により、ステレオジェニック中心となっており、二核錯体全体としてはメソ体となっている。これはキラル体の場合よりも多数の水素結合が形成できるためと考えられる。これにより、二核錯体全体は扇形となり、配位子空間が形成されている。このように、配位子空間の構成において金属中心の立体配置が果たす役割は大きい。 この点を更に追求するため、四面体金属中心の立体配置の制御を目指して研究を行った。これまでの錯体では、金属中心の立体反転が容易に起こるという問題が明らかになった。そこで、キラル配位子を持たない金属中心の立体配置を制御するため、より強力に金属中心に配位する配位子を合成した。この配位子について、まず四面体錯体の合成とキラル配位子の付加を行い、立体配置を制御した後、キラル配位子を化学反応により除去し、キラル配位子を持たない四面体錯体を合成した。この錯体について、核磁気共鳴分光法および後述の不斉触媒反応により、金属中心の立体配置が保たれることを確かめた。 これまで四面体型金属中心は容易に立体反転するため、キラル配位子がない状態で立体配置を保持できないと考えられてきた。本研究の結果はこれを覆すものである。 得られた錯体について、不斉触媒への応用も検討した。この錯体はルイス酸として働くと考え、この錯体を不斉触媒としたoxa-Diels-Alder反応を試みた。その結果、触媒反応が効率的に進行し、またエナンチオ選択性が確認された。さらに、配位子上および基質上の置換基を変更することで、エナンチオ選択性は80%まで向上した。この結果は、本研究で得られたキラル錯体の有用性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は、両親媒性扇形二核錯体の自己集合による配位子空間の構築を達成した。本年度は、この配位子空間を構成する二核錯体の構造に着目し、金属中心の立体配置が重要な役割を担っていると考えた。 この考えに基づき、より一般的に四面体金属中心の立体配置の制御を目指して研究を行った。当初、これまで用いていた錯体では、金属中心の立体反転が容易に起こり、キラル配位子の共存下でなければラセミ体しか得られないという問題が明らかになった。しかしながら、配位子設計を改良し、新たに合成した配位子を用いることで、キラル配位子を除去した後でも立体配置が保持することに成功した。これは、キラル配位子を持たない金属中心の立体配置を制御できたことを意味する。これまで四面体型金属中心は容易に立体反転すると考えられてきたため、キラル配位子がない状態での立体配置の制御はほとんど研究されることがなかった。本研究の結果はこれに対し大きなブレイクスルーとなる。 更に、得られた錯体は不斉触媒として働くことを示すこともできた。この錯体は配位子交換によりルイス酸として働くため、ルイス塩基性の基質を活性化できる。この錯体を不斉触媒とし、不斉oxa-Diels-Alder反応を行った。その結果、触媒反応が効率的に進行し、エナンチオ選択性の発現が確認された。さらに、配位子上および基質上の置換基を変更することで、エナンチオ選択性は80%まで改善した。この結果から、本研究で得られたキラル錯体は外部に立体情報を取り出せる有用性が確認された。 このように、当初予定していなかった結果ではあるが、配位子空間のみならず錯体化学全体において意義深い成果となったため、当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に開発した四面体型金属中心のキラリティの制御法と不斉触媒反応への応用について、詳細な解析と発展的な研究を行う。具体的にはまず、キラル配位子を除去した錯体について、単離精製を試みる。得られた錯体について、NMRにおいてキラルシフト試薬を用い、エナンチオ純度を検証する。また、キラルシフト試薬を用いたNOESYおよびXRDの二つの方法によって絶対配置を決定する。さらに、CDおよびCPLといったキラル光学特性を確認する。次に、錯体のラセミ化速度について検証する。四面体錯体は通常ラセミ化が非常に速いことが知られているため、この錯体についてラセミ化速度が遅いことを証明できれば、錯体化学におけるブレイクスルーとなる。具体的には、キラルシフト試薬およびCDを用いて測定を行う。 また、不斉触媒としての性能についても引き続き検討する。まず、Gutmann-Beckett法を用いて、Lewis酸性を評価する。モデル反応としては引き続き同じものを用い、反応溶媒・温度などの反応条件を調節して高エナンチオ選択性を目指す。反応中間体の構造についてNMR、XRDによって解析し、反応機構を推定する。また、基質一般性についても検討する。 発展的な研究として、キラル補助剤を触媒量に削減することを試みる。戦略としては、錯体形成の段階で用いる金属源を低反応性にし、キラル補助剤が金属源に配位することで三座配位子との錯体形成が加速される系の構築を目指す。また、触媒性能について、不斉光反応への応用を試みる。既にこれまでの研究でアルデヒドが錯体に配位すると吸収帯が長波長側に移動することが確かめられているため、これを利用して選択的に触媒基質複合体の活性化を行い、不斉光触媒反応の実現を目指す。また、同じ三座配位子について亜鉛以外の金属との錯体形成も検討し、5配位・3配位といった新たな形の金属中心キラリティの制御を目指す。
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