研究課題/領域番号 |
17J06604
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大石 一樹 鹿児島大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | シアリダーゼNeu3 / ガングリオシド / 肝臓 / 脂質代謝 / Edwardsiella tarda |
研究実績の概要 |
本研究では、魚類シアリダーゼの生理機能を明らかにするため、環境や感染などの視点から糖鎖およびシアリダーゼの生理的意義の解明を目指している。本年度は、1)飼育環境の変化における魚類シアリダーゼの意義と2)魚病バクテリア感染における魚類シアリダーゼの意義の検討を行った。 1)魚類の重要なエネルギー源である脂質は、肝臓などの脂質蓄積部位にトリグリセリド(TG)などの形で貯蔵される。この貯蔵脂質は、絶食時に分解され、エネルギー源として消費される。近年、哺乳類では脂質蓄積を制御する様々な分子が報告されているが、魚類ではほとんど研究が行われておらず、脂質蓄積がどのような分子によって制御されているのかについては明らかになっていない。そこで本研究では、哺乳類において中性脂質蓄積の制御因子として報告されているガングリオシドに注目し、解析を進めてきた。メダカを用いた解析の結果から、脂肪酸合成を制御する転写因子であるsrebf1とともに絶食時の肝臓においてメダカneu3aの発現が増加しており、脂質代謝に関与していることが示唆された。そこで、魚類培養細胞を用いて作製したNeu3a安定発現細胞で、脂質代謝時のNeu3aの役割について調べた。その結果、Neu3a安定発現細胞では、リパーゼ活性の増加に伴う細胞内TG量の減少と遊離脂肪酸の増加が認められた。以上の結果から、魚類Neu3によるガングリオシド脱シアリル化を介して、絶食時の肝臓ではエネルギー産生のためのTG分解が促進されていることが示唆された。 2)については、メダカを用いたE. tarda感染実験の結果から、感染初期にメダカ魚体内でneu3aの発現が一時的に増加することが明らかになった。さらに、魚類培養細胞を用いた解析の結果から、Neu3aシアリダーゼ活性の高い細胞の方がE. tarda感染感受性が高いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1)と2)について重点的に研究を進めた。1)については、メダカを用いた解析の結果から、脂肪酸合成を制御する転写因子であるsrebf1とともに絶食時の肝臓においてメダカneu3aの発現が増加していた。また、neu3aの転写開始点上流部には、Srebf1の結合配列の存在も予想され、neu3aが脂質代謝に関与していることが示唆された。そこで、魚類培養細胞を用いて作製したNeu3a安定発現細胞で、脂質代謝時のNeu3aの役割について調べた。その結果、Neu3a安定発現細胞では、細胞内TG量の減少と遊離脂肪酸の増加が認められた。また、Neu3a安定発現細胞ではリパーゼ活性がmock細胞に比べて増加していた。次に、これらの現象にどのようなガングリオシドが関与しているのか調べたところ、Neu3a安定発現細胞で減少していたガングリオシドGM3が、細胞内TG量の制御に関与していることが明らかになった。以上の結果から、魚類Neu3によるガングリオシド脱シアリル化を介して、絶食時の肝臓ではエネルギー産生のためのTG分解が促進されていることが示唆され、得られた結果については論文投稿中である。 2)については、メダカを用いたE.tarda感染実験の結果から、感染初期にメダカ魚体内でneu3aの発現が一時的に増加することが明らかになった。さらに、魚類培養細胞を用いた解析の結果から、Neu3aシアリダーゼ活性の高い細胞の方がE.tarda感染感受性が高いことが明らかになった。また、E.tarda感染感受性が高かった細胞の糖脂質組成を解析したところ、グルコシルセラミドやラクトシルセラミドといったNeu3aの代謝産物が多く存在していた。これらの結果から、E.tarda感染の促進にメダカNeu3aが関与していることが明らかになった。以上の理由から、本研究課題はおおむね順調に進捗していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、2) 魚病バクテリア感染における魚類シアリダーゼの意義の検討を中心に進める。これまでの解析により、E. tarda感染初期にメダカ魚体内でneu3aの発現が一時的に増加することが明らかになっている。さらに、魚類培養細胞を用いた解析の結果から、Neu3aシアリダーゼ活性の高い細胞のほうがE. tarda感染感受性が高いことが明らかになった。これらのことから、E. tarda感染の促進にメダカNeu3aが関与していることが明らかになってきた。しかし、E. tarda感染初期にどのようなメカニズムによってneu3aの発現が変化するのかについてはよくわかっていない。そこで本年度は、メダカneu3a転写開始点の5´上流部の配列をGFP発現プラスミドのプロモーター領域に挿入したプラスミドを用いて、感染時の魚類neu3の転写調節機構を明らかにする。さらに、E. tardaの菌体外成分に着目して、どのような菌体外成分がneu3aの遺伝子発現の変化に影響しているのかについてreal-time PCRを用いて評価を行う。 また、E. tarda感染感受性が高かった細胞の糖脂質組成を解析したところ、グルコシルセラミドやラクトシルセラミドといったNeu3aの代謝産物が多く存在していた。しかし、これらの糖脂質とE. tarda感染との関係はよくわかっていない。そこで、これらの糖脂質に着目し、E. tarda感染においてこれらの糖脂質が感染においてどのような役割を担っているのかを解析する。これらの研究によって得られた結果は、データをまとめて今年度中に論文投稿を完了させる。
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