本研究では、魚類シアリダーゼの生理機能を明らかにするため、環境や感染などの視点から糖鎖およびシアリダーゼの生理的意義の解明を目指している。本年度は、魚病バクテリア感染におけるスフィンゴ糖脂質の意義について検討した。 Edwardsiella tardaはヒラメなどに感染し、養殖業に甚大な被害をもたらす魚病細菌である。一般に、細胞表面の膜マイクロドメインを介して細胞内に侵入するとされるが、侵入に関与する分子については明らかになっていない。そこで、膜マイクロドメインに多く存在するスフィンゴ糖脂質に着目して解析を進めた。メダカを用いた解析から、E. tarda感染魚の肝臓ではスフィンゴ糖脂質の合成が抑制されており、スフィンゴ糖脂質が感染に関与していることが示唆された。次に、魚類培養細胞を用いてスフィンゴ糖脂質がE. tarda感染に与える影響を調べたところ、細胞間でE. tarda感受性に違いが認められた。そこで、細胞の糖脂質組成を比較したところ、E. tarda感受性が高い細胞ではスフィンゴ糖脂質の1種であるラクトシルセラミド(LacCer)の発現が高いことが分かった。さらに、LacCerの発現を誘導した細胞ではE. tarda感染が促進され、LacCerの発現を阻害した細胞では感染が抑制されたことから、LacCer発現量がE. tarda感染に関与していることが示唆された。そこで、その作用機序を明らかにするため、E. tardaへのLacCer曝露を行い、その性状変化を観察した。その結果、E. tardaの増殖速度に差は認められないが、細胞への感染が阻害され、M. tuberculosisなどと同様の機構でLacCerが接着に関与していることが示唆された。以上の結果より、宿主LacCerはE. tarda感染を制御する重要な因子であることが示唆された。
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