研究課題/領域番号 |
17J06627
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小田 春佳 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 核アクチン / ZGA / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
多くの動物の発生初期の細胞は、転写が抑制され未分化性を維持したまま素速い細胞周期を繰り返すという、分化した細胞とは異なる特徴を持つ。ゼブラフィッシュやアフリカツメガエルでは、この特徴が胞胚期まで維持されている。申請者はこれまでに、胞胚特有の核の機能に関わる分子基盤の解明を目指して研究を行い、重合したアクチン(F-アクチン)がアフリカツメガエル胞胚の核に蓄積することを明らかにした。核アクチンは胞胚特有の核の機能に関与する可能性が考えられるが、その詳細は明らかでなく、本研究ではゼブラフィッシュ胚を用いたライブイメージングを行い、胞胚における核アクチンの役割の解明を目的とする。当該年度はアフリカツメガエルと同様にゼブラフィッシュ胚においても、胞胚の核にアクチンが蓄積するかを検証した。ゼブラフィッシュ胚は、受精後に同調した細胞分裂を繰り返し、細胞数が約1000個に達すると転写が活性化され(ZGA: zygotic genome activation)、細胞分化が開始する。ゼブラフィッシュ胚を固定しF-アクチンを染色した結果、アフリカツメガエル同様、胞胚の核にF-アクチンが蓄積していることが確認された。一方でZGA後の胚の核ではF-アクチンの蓄積が確認されなかった。さらに、核F-アクチンの挙動をより詳しく解析するため、蛍光タンパク質を付加したアクチン結合タンパク質を、ゼブラフィッシュ胚に顕微注射して、胚発生の様子を共焦点顕微鏡で観察した。その結果、1000細胞期までは間期の核内にアクチンが蓄積するが、ZGA以降は核アクチンが顕著に減少することが示された。また、分裂期のクロマチン上にはアクチンの蓄積は見られなかった。このことは、胞胚期の核の機能的特徴にアクチンが関与するとともに、転写の活性化や細胞分化、細胞周期の延長などには核アクチンが阻害的に働く可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、ゼブラフィッシュ胚を用い、アフリカツメガエル以外の生物においても胞胚期の細胞の核にアクチンが集積することを初めて明らかにした。アフリカツメガエル胚を用いたこれまでの研究では、胚発生過程における核アクチンの挙動の詳細は不明であったが、ゼブラフィッシュ胚を用いた解析により、良好な結果を得た。固定したゼブラフィッシュ胚を用いた解析と、ライブイメージングによる解析の結果、細胞が未分化性を維持したまま短い細胞周期で分裂を繰り返す胞胚期の核にアクチンが蓄積すること、その後転写が活性化され細胞分化が開始する時期に至ると、核アクチン量が減少することが明らかになった。このことは、胞胚での核アクチンの蓄積と初期胚の短い細胞周期や未分化性の維持との関連と、ZGA後の核アクチンの減少と転写活性化との関連の両方を示唆するものである。さらに、この核アクチンの挙動がアフリカツメガエルのみならずゼブラフィッシュでも共通の現象であることから、核アクチンは胞胚期の細胞の未分化性の維持やその後の転写活性化の制御に重要な普遍的役割を持つ可能性が考えられ、今後の解析による核アクチンの生理的意義の解明が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後、胚発生初期の胞胚の細胞における核アクチンの役割の解明に向け、核アクチンの量や動態を操作した際の、ヒストン修飾状態や転写関連因子の挙動の解析を行う。具体的には、アクチン核外輸送因子であるExportin6や、重合できないアクチンの変異体に核移行シグナルを付加したリコンビナントタンパク質の異所的発現により、ゼブラフィッシュ胞胚の核アクチン量を減少させる、または核アクチンの重合を阻害した際の、ヒストン修飾状態ならびに転写関連因子の挙動をライブイメージングによって明らかにする。さらに、核移行シグナルを付加したアクチンの発現により、ZGA後も核アクチンが減少しないゼブラフィッシュ胚を用い、転写活性化の時期や転写関連因子の挙動を解析する。これらにより、核アクチンと胞胚期の細胞の未分化性の維持やその後の転写活性化の制御との関連を明らかにする。
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