研究課題/領域番号 |
17J06717
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
比嘉 毅 大阪大学, 蛋白質研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 葉緑体運動 / 光受容体 / フォトトロピン / CHUP1 / 生化学 |
研究実績の概要 |
本研究では植物の葉緑体が光合成効率を高めるために弱い光に集まり(集合反応)、強い光から逃れることで損傷を防ぐ(逃避反応)、葉緑体光定位運動について、未知の制御因子の同定を経て、いまだ解明されていない光依存の葉緑体運動における一連の信号伝達メカニズムを明らかにすることを目的としている。 その初期段階として、当該年度においては未知の制御因子候補を得るべく、これまで葉緑体光定位運動研究において試みがなされてこなかった生化学的なアプローチを取った。具体的には葉緑体光定位運動を制御する光受容体であるフォトトロピン2(phot2)、及び葉緑体の運動に必須であるcp-actin繊維の重合と維持に機能するCHUP1タンパク質について複合体の精製を行った。その構成成分をLC/MS/MSによって同定・定量することによって、新規制御因子候補としてPHOT2と相互作用する59のタンパク質と、CHUP1と相互作用する8つのタンパク質が同定された。このうちPHOT2とCHUP1の両方への相互作用が見られるものが2つ同定されており、光受容と運動の間をつなぐ信号伝達系の解明に期待が持てる。また新規の候補因子の他に、葉緑体光定位運動への関与がすでに知られているTHRUMIN1やPMI1といったタンパク質の相互作用が同時に認められ、今回の実験手法が適切であることが示された。 すでに新規候補因子すべてのT-DNA挿入変異植物の種子を取得しており、欠失が葉緑体光定位運動に与える影響を調べる段階に入っている。葉の色変化による葉緑体光定位運動変異体スクリーニング法の一つであるバンドアッセイでは、これまでのところ葉緑体定位運動に大きな変化を与える変異は見つかっていないが、今後さらに詳細に影響を調べるべく準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな目標であったphot2及びCHUP1複合体のアフィニティ精製とその後のMS解析がすでに達せられ、新規の葉緑体光定位運動制御因子の候補として65のタンパク質が同定されている。CHUP1タンパク質の精製の際には、その分解の早さが問題となることがわかったが、葉肉細胞プロトプラストを調整し、化学架橋剤として細胞に浸透しやすいホルムアルデヒドを用いるという方法でこの問題を解決することができた。またプロトプラストを用いる方法は、従来のブレンダーで葉を破砕する方法よりも化学架橋時の光環境をコントロールしやすいというメリットがあり、葉緑体の集合反応が誘導される弱光下、及び逃避反応が誘導される強光下など、光に応答した複合体構成因子の変化の解析など、今後の研究に非常に有効であると考えられる。 上述した新規の候補因子については、すべてのT-DNA挿入変異株の種子を入手しており、次年度に予定していた葉緑体光定位運動の変異体スクリーニングの一つであるバンドアッセイがすでに終了している。現在、これらの変異体における葉緑体光定位運動へのより詳細な影響を観察するため、葉の光透過率を利用したスクリーニングのための準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
葉の光透過率を利用した変異体スクリーニングを行い、葉緑体光定位運動の制御に関与する因子を特定する。特定された因子については、顕微鏡下でその変異体の葉緑体運動の様子を観察する。また、 GFPやYFP等との融合タンパク質を発現する植物体を作成して、新規因子の細胞内局在や既知の葉緑体光定位運動制御因子との共局在の有無の観察、さらに光に応答した新規因子の動態の変化の有無などを明らかにしていく。特に葉緑体の運動に必須のcp-アクチン繊維に与える影響などを観察することで、新規因子の機能解明につなげたい。
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