研究課題/領域番号 |
17J06718
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 千尋 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | エアロゾル / 氷床コア / カルシウム化学種 / XAFS |
研究実績の概要 |
申請者はこれまで、エアロゾル試料中のカルシウム化学種分析に基づき、鉱物粒子中の炭酸カルシウムと硫酸の大気中での反応について考察を行ってきた。これをベースに、本研究では、グリーンランド南東部のSEドームで掘削された1960~2014年の環境情報を保持する氷床コア中に捕捉された粒子(エアロゾルとして大気中を浮遊したものが氷床上に沈着し、取り込まれたもの)を分離し、それら粒子の各年代における化学種をX線吸収微細構造(XAFS)法を用いて明らかにすることで、当時の大気環境を推定し、各年代の大気酸性状態の指標の確立や吸湿性エアロゾルによる地球冷却効果を詳細に理解することを目指している。 貴重な氷床コア試料を用いて、その中に捕捉されている微量な粒子の化学種分析を行う上では、対象元素の検出感度以上の試料量を効率よく回収することが重要となる。そこで、1年度目は粒子の回収に適した試料作製方法の考案・試行・分析を繰り返し、粒子の変質を最低限に抑えながら、目的の分析実施が可能な量を回収する試料作製方法の最適化を行った。 回収した粒子の分析は大型放射光施設にて行った。ビーム径が細かなX線を用いたX線蛍光分析(XRF)から、カルシウム含有粒子を見つけ出し、それら個々の粒子中のカルシウム化学種をカルシウムK端XAFSを測定することで明らかにした。 得られた分析結果から過去の北半球での二酸化硫黄(石炭燃焼などの人為的活動によって主に排出される)の排出量の経年変化などに関する考察を進めた。さらに、後方流跡線解析を用いて、使用した氷床コアの掘削地であるグリーンランド南東部にどこから空気塊がやってきたかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年度目は分析試料の作製方法の確立を第一の目標にしていたが、それを達成することができた。一方、試料の分析については、当初の研究計画では、1年目にXAFS法による粒子中の平均的な化学種同定を、2年目に単一な粒子個々の化学種同定を実施する予定であったが、一部予定を変更し、本年度は上記試料作製方法を用いて氷床コアから分離した粒子個々に含まれるカルシウム化学種の同定を大型放射光施設で行った。平均的な化学種の解明については、2年度目に実施する予定である。当初の計画と順番は前後したが、研究の進捗への影響は小さいと考えている。 さらに、後方流跡解析による空気塊の輸送過程の解明は当初は予定していなかったが、本研究の考察を進める上で有意義な結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1年度目に実施予定であった、氷床コアから分離した粒子中の平均的なカルシウム及び硫酸塩化学種の同定を、大型放射光施設高エネルギー加速器研究機構にて実施する予定である。また、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて、多数の粒子の粒径・形態・組成を分析することで、XAFS法で得られた結果の補完を行う。これまでに得られた結果をまとめ、国際学術誌に投稿する論文の執筆も進める予定である。 また、1年度目の分析の結果から、粒子中のカルシウム化学種の変化が東アジアにおける中国乾燥地域由来の炭酸カルシウムと中国の都市部・工業地帯から発生する二酸化硫黄の反応を反映していることが示唆された。この現象の詳細を明らかにするためには、まず東アジア域における粒子の輸送・反応過程を理解する必要があると考えた。 そこで、当初予定していた研究内容に加え、日本国内でもエアロゾル粒子を採取し、それらの起源や東アジア域を輸送される中で起きる反応の過程を明らかにする研究も現在進めており、2年度目も氷床コア中粒子の分析と並行して実施していく予定である。
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