研究課題/領域番号 |
17J06718
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 千尋 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | エアロゾル / 硫酸塩 / 氷床コア / カルシウム化学種 / X線吸収微細構造法 |
研究実績の概要 |
本研究では「グリーンランド氷床コア中の硫酸塩エアロゾルの化学種解明による環境影響の変遷」を明らかにすることを目指している。これまでに、氷床コア中から粒子を分離し、放射光を用いたX線吸収微細構造(XAFS)法を駆使した粒子中のカルシウム化学種の同定の結果から、1970~1980年代に比べ1990年代以降、鉱物粒子中の炭酸カルシウムと硫酸の反応が増加していることを示唆する結果を得た。このことから、グリーンランドに飛来するエアロゾル中の硫酸イオンの起源として、1990年代以降東アジアが相対的に重要になっていることが考えられた。しかし、1990年頃からグリーンランドの海岸域で氷床交代による沿岸部露出が報告されており、本研究で見られた1990年代以の化学種の変化は、露出した近隣の海岸域の土壌などに由来する可能性もあった。 本年度はまず、グリーンランドの氷床コア掘削地点周辺地域の土壌試料についても同分析法を用いて化学種を調べ、周辺地域からの影響を否定し、これまでの結果・考察を支持することができた。 さらに、問題にした東アジアにおいて、鉱物エアロゾルと大気中の硫酸との中和反応についてさらに追及する必要があると考え、能登半島におけるエアロゾル試料の採取による東アジアのエアロゾル化学研究に着手した。通年試料を採取し、試料中の主要イオン濃度・微量金属元素濃度・硫酸およびカルシウム化学種・硫黄同位体比などの分析結果を複合的に用いることで、エアロゾルの大気中での反応や起源、輸送過程についての理解を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたグリーンランドの氷床コアから分離した粒子中の平均的なカルシウム及び硫酸塩の化学種をXAFS法を用いて同定を試みたが、氷床コア中から取り出すことができる粒子の量が少ないことや含まれるカルシウムや硫酸が低濃度であることから、測定は困難を極めた。試料の作成方法や分析方法に工夫を施したが、有意義な結果を得ることができなかった。一方で、当初予定していなかったグリーンランドの土壌試料のカルシウム化学種の分析を実施したことで、これまでの結果・考察を補完することができたことは、本研究において重要な成果であった。 また、東アジアにおけるエアロゾルの大気中での挙動を理解するために、当初予定していた研究内容に加え、能登半島にてエアロゾル試料を採取し、分析を進めた。1年半以上に渡って同地域での粒径7分画したエアロゾル試料の採取を実施した。この試料セット自体が重要な研究資源といえる。このうち、本研究では約1年分の試料セットを用いる。この試料に対し、元素濃度や化学種、硫黄同位体比の分析を行ったことで、多角的に議論することができている。議論の基礎となる試料中の主要イオン濃度・微量金属全濃度の定量は対象試料の8割の分析を終えている。また、化学種同定については各季節を代表する試料を2~3セットずつ分析を終えており、おおむね順調に分析が進んでいる。また、国内学会で1回(口頭発表)、国際学会で1回(ポスター発表)で得られた成果を報告することができた。 上述を踏まえ、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
硫酸塩エアロゾルの起源や反応・生成過程を知るうえで、硫黄同位体比が重要なツールとなる。また、エアロゾルの起源・粒子生成過程の違いにより粒子サイズが異なる。そこで、能登半島で粒径7分画して採取したエアロゾル試料中の硫黄同位体比の分析を進める。また、硫酸塩エアロゾルの前駆物質である二酸化硫黄の7割は化石燃料燃焼によって排出されている。その燃焼過程では化石燃料に含まれる微量金属元素も大気中に放出される。これらは、どのような化石燃料に由来する物質の影響を受けているかを知るうえで有効なトレーサーにもなりうる。本研究では、ニッケルや亜鉛に着目し、試料中濃度や濃縮係数、硫酸との相関を明らかにすることで、硫酸塩エアロゾルの起源について理解を深める。
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