本研究では、グリーンランドで掘削された氷床コア中に捕捉された粒子(エアロゾルとして大気中を浮遊したものが氷床上に沈着し、取り込まれたもの)を分離し、それら粒子の各年代における化学種同定の結果から当時の大気環境を推定し、各年代の大気酸性状態の指標の確立や吸湿性エアロゾルによる地球冷却効果を詳細に理解することを目指した。前年度までの結果から、粒子中のカルシウム化学種の変化が東アジアにおける中国乾燥の地域由来の炭酸カルシウムと中国の都市部・工業地帯から発生する硫酸の反応を反映していることが示唆されたが、この現象の詳細を明らかにするためには、まず東アジア域における粒子の輸送・反応過程を理解する必要があると考えた。そこで、当初予定していた研究内容に加え、石川県珠洲市にある能登大気観測スーパーサイトにてエアロゾル粒子を採取し、それらの起源や東アジア域を輸送される中で起きる反応の過程を、化学種分析や硫黄安定同位体分析によって明らかにする研究を実施した。 粒径を7分画して約1年間採取したエアロゾル試料に対し、主要イオン濃度測定、微量金属濃度測定、X線吸収微細構造(XAFS)を用いた硫黄やカルシウムなどの化学種の同定、マルチコレクター型ICP-MSを用いた硫黄同位体比(硫酸の起源推定の1つの指標となる)の測定を行った。これら分析結果を用い複合的に議論を行った。 1年間の季節変化を見てみると、特に黄砂が飛来する春の試料で石膏の割合が大きくなった。鉱物粒子中の炭酸カルシウムが反応し石膏が生成される現象は、グリーンランド氷床コア中に捕捉された粒子で見られた結果と似ている。またこの春の試料で、硫酸の起源は中国の化石燃料燃焼由来であることが示唆された。このことから、中国で人為的に発生した硫酸が、黄砂(中国の砂漠・乾燥地帯が発生源)中の鉱物粒子と反応し、石膏が形成され、大気中を輸送されたと考えられた。
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