研究課題/領域番号 |
17J06739
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇田 耀一 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 光遺伝学 / シグナル制御 / PhyB-PIFシステム / フィコシアノビリン |
研究実績の概要 |
これまでの研究からERKやAktの活性化の動的な変化に表現型の情報がコードされているという仮説がこれまで提案されている。しかし、シグナル伝達分子の動的な変化と表現型のリンクを直接的に検証した例は現在までほとんど報告されていない。従来のように細胞外から刺激や阻害剤を加えて出力のみを観察する手法では、シグナル伝達分子の動的な変化を再構成することは技術的に困難である。本研究では赤色光に特異的に応答するPhyB-PIFシステムに着目し、この系をより汎用的に使えるよう改良し、シグナル伝達分子の活性の強度や周波数を再現性良く再構成することを目的として研究を進める。本年度は以下のように研究を実施した。 1.PhyB-PIFシステムの改良 システムをさらに簡便に利用するため哺乳動物細胞内のPCB産生のさらなる増加に取り組む。PCBは右図へ示したようにビリベルジン還元酵素(BVRa)によって分解されることが知られていた。そこで、BVRaの抑制によってPCB産生量の増加に成功した。また、現在導入しているタンパク質(HO1, PcyA, Fd, Fnr)は通常のシアノバクテリア由来であるが、これを耐熱性シアノバクテリア由来とすることで哺乳動物細胞内でのPCB産生に最適化した。 2.細胞内シグナルの制御 細胞内においてcRafの活性部位を膜移行させることでERKシグナルの制御を試みた。制御に赤色光を用いたことで、FRETバイオセンサーと併用し、ERK活性の観察と制御を同時に行うことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
赤色光/近赤外光に応答する光受容タンパク質Phytochrome B (PhyB) をそれを用いた光遺伝学の開発を行った。PhyBは発色団としてPhycocyanobilin (PCB) が必要だが、動物細胞ではPCBは合成されていない。今回、私は光合成細菌のPCB合成に関係する遺伝子4つ(PcyA, HO1, Fd, Fnr) を培養細胞のミトコンドリアに発現させると、哺乳類培養細胞内でもPCBを合成できることを見出した。さらに、PCBの分解酵素であるBiliverdin reductase A (BVRA) をノックアウト、ノックダウンすることでPCBの合成量が増加することも明らかにした。またこの系を用いて、Rac1はERKといった細胞内シグナル伝達系の光操作にも成功している。これらの研究結果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。 現在、さらなるPCB合成系の最適化とPhyBによるシグナル伝達系の操作法の開発を行っている。これらのことから、期待以上の研究の進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の方針で研究を進める予定である。 (1)PhyB-PIFシステムのさらなる改良 PCBの分解酵素であるビリベルジン還元酵素が哺乳動物細胞内PCB産生において最大の障害であることが昨年度の研究から明らかになった。そこで、今年度はノックダウン/ノックアウトを用いて遺伝的にビリベルジン還元酵素を抑制すると共に、ビリベルジン還元酵素阻害剤について探索を行う。赤色光を制御に用いる光依存性二量体化(LID)システムはPhyB-PIFシステムのほかにもいくつか報告されているが、ビリベルジンを発色団として用いるシステムであり、ビリベルジン還元酵素阻害剤の探索は他システムへの応用を考えた際にも有用であるといえる。 (2)細胞内シグナルの振動による表現型の制御 昨年度は細胞内においてcRafの活性部位を膜移行させることでERKシグナルの制御を行い、制御に赤色光を用いたことで、FRETバイオセンサーと併用し、ERK活性の観察と制御を同時に行うことに成功した。今年度は引き続き多色光を用いた複数シグナルの同時制御に取り組む予定である。制御に青色光を用いる他のLIDシステム(CRY2-CIBNシステムなど)とPhyB-PIFシステムを用いてERKシグナルおよびAktシグナルの同時制御系を確立する。さらに、実際に細胞内においてERKおよびAktシグナルを同時に制御し、二つのシグナルの動的変化が表現型へ与える影響を明らかにする。
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