研究課題
膜脂質PI4Pの代謝・輸送を介した出芽酵母前胞子膜の形態形成メカニズム明らかにするために、以下の研究を行った。1.これまでの研究で、前胞子膜伸長に異常をきたす spo73 遺伝子破壊株(spo73Δ)とPI4Pを生成するPI 4-キナーゼのStt4の関係について解析を進めていた。実験系の改善を試みた結果、胞子形成時特異的に発現が抑制されるCLB2のプロモーターを用いてStt4の発現を抑制することで、spo73Δの胞子形成能と前胞子膜伸長が部分的に回復することが明らかになった。2.これまでの研究で、前胞子膜上のPI4P量を減少させるために、PI4P ホスファターゼSac1と前胞子膜マーカーのキメラタンパク質を用いていたが、このSac1-Pキメラタンパク質により実際にPI4P量が減少しているかは確認できていなかった。そこで、既存のPI4Pマーカーを基に新規マーカーを作製して解析を進めた結果、Sac1-Pキメラタンパク質によるPI4P量の減少を実証することに成功した。さらに、spo73Δでは野生株と比較して前胞子膜上のPI4P量が増加している可能性も示された。3.前胞子膜伸長においてPI4Pと関連する因子を同定するために、spo73Δの表現型を解析した結果、栄養増殖時に細胞膜と小胞体の接触部位の形成を担う繋留タンパク質の局在に異常が見られた。さらに、その1つであるIst2について詳細に解析した結果、野生株では前胞子膜近傍に局在する一方で、spo73Δでは前胞子膜近傍に局在しない、あるいは子嚢細胞質側から前胞子膜近傍に局在することが明らかになった。4.また、PI4Pと前胞子膜形成の関連についての研究と並行して、1型プロテインホスファターゼのGip1-Glc7複合体の胞子形成時における役割についても解析し、Gip1の局在化や脱リン酸化の基質認識に関わる領域について成果をまとめた。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進展している。オルガネラ接触部位に関連するタンパク質に加えて、小胞輸送に関連するタンパク質やPI4Pとの相互作用が知られているタンパク質の局在についても解析を進めている。
今後は、spo73ΔのPI4P関連の表現型について詳細に解析を進める。特に、オルガネラ接触部位との関連については、前胞子膜上に他のオルガネラとの接触部位が形成されているのかを検証するために、二分子蛍光相補法(BiFC)や電子顕微鏡を用いて解析を行う。また、オルガネラ接触部位の形成を担う繋留タンパク質の破壊株を作製し、表現型の解析やPI4P量の変化と前胞子膜形成との関連についても解析を進める。さらに、小胞輸送に関連するタンパク質やPI4Pと相互作用するタンパク質についても詳細に解析を進めていく。これらを通して、膜脂質であるPI4Pが生体膜の形態形成にどのように関わるのかを明らかにしたい。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Molecular Biology of the Cell
巻: 28 ページ: 3881-3895
10.1091/mbc.E17-08-0521
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2017/20171218-2.html