研究課題/領域番号 |
17J06875
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金子 和哉 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 統計物理 / 量子情報 / 数理物理 / 熱力学第二法則 / 非平衡統計力学 / 冷却原子 / 量子エレクトロニクス / ゆらぎの定理 |
研究実績の概要 |
本年度では、本研究課題の主要なテーマである量子純粋状態における熱力学第二法則に焦点を当て理論的に解析を行った。近年の孤立量子系の熱平衡化の研究で、量子純粋状態であっても可逆なユニタリ時間発展により熱平衡状態へ緩和することが確認されている。しかし、量子純粋状態に対する熱力学第二法則の研究は多くは行われておらず、仕事の振る舞いや熱と情報エントロピーの関係性は完全には理解されていない。これらを理解するために、熱平衡化の機構として重要となっている固有状態熱化仮説や数理物理的手法を用いて議論を行った。 まず昨年度までに行った「量子純粋状態の熱浴における熱力学第二法則・ゆらぎの定理」の結果が論文誌に掲載された。その研究の続きとして、より長い時間スケールにおけるエントロピー生成の振る舞いを、孤立量子系の熱平衡化の理論を応用することで解析した。その結果、量子系においても「エントロピー生成が一定値に飽和する」という描像が成立することを証明した。またエントロピー生成の非負性(第二法則)を導くためには、固有状態熱化仮説が重要であることも判明した。この成果はPhysical Review E誌に掲載された。 さらに孤立した量子系のエネルギー固有状態から、取り出すことが可能な仕事について解析を行った。そしてエネルギーシェルに含まれるエネルギー固有状態の中で、正の仕事を取り出せるエネルギー固有状態の割合を上から評価することに成功した。とくに系の体積を大きくする熱力学極限では、そのような割合がゼロになることを示した。また系の可積分性による影響を調べるために、厳密対角化を用いた数値シミュレーションを行い、系のダイナミクスが非可積分なハミルトニアンにより駆動される場合には、仕事を取り出せるエネルギー固有状態が存在しなくなることを発見した。これは固有状態熱化仮説と同様に非可積分性が重要であることを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、長時間スケールにおけるエントロピー生成の振る舞いを解析する予定であった。この計画通りに研究を進めることができ、エントロピー生成の飽和の理論を完成させることができた。また研究成果をまとめた論文も論文誌に掲載されており、研究が当初の計画通りに完了している。 さらに新たな研究にも着手し、エネルギー固有状態から取り出せる仕事と系の可積分性との関係に関して新たな知見を得ている。理論的な面についてはおおむね研究は完了しており、数値計算により細部を確かめる段階にある。確認作業が終われば、研究内容を精査し論文として出版することが可能であろう。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究と同じアプローチで研究を進める。まずエネルギー固有状態からの仕事の取り出しについて、数値シミュレーションを様々なパラメータのもとで行い、系の可積分性が与える影響の詳細を調べる。その後、解析計算により得られた不等式などとの整合性を確認する。以上が順調に進めば、第二法則と操作の可積分性との関係が明らかになるだろう。これにより、当初の疑問であった量子系に対する熱力学第二法則を破らないような操作とは何かという問いに、部分的な答えが得られる。さらに解析を進めていき、可積分性以外の性質が与える影響へと議論を進める。 またブラックホールの情報喪失問題の研究から、量子カオスと情報の拡散の関係性が、この一年で大きく注目を集めるようになった。量子カオスや情報の拡散は、系の非可積分性や熱平衡化、第二法則とも大きく関係性しているため、これまでに得られた知見を活かすことで、このような新たな話題にも研究を進める予定である。
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