2つの研究テーマ「高次の固有状態熱化仮説による量子多体ダイナミクスの複雑性の特徴づけ」と「アニール・クエンチによる量子アニーラーの高速化」の研究を行った。
昨年度に引き続き、孤立量子多体系における熱平衡化と情報スクランブリングの理論研究を行った。熱平衡化において重要な仮説が、エネルギー固有状態自体が熱平衡状態と区別できないという固有状態熱化仮説である。一方、情報スクランブリングは量子情報の非局在化・非局所化現象であり、新たな量子カオス性の特徴づけとして議論されている。我々は、熱平衡化と情報スクランブリングの本質がダイナミクスのランダムネスにあると考え、高次の固有状態熱化仮説を導いた。以上の結果は、孤立量子系の熱平衡化と情報スクランブリングをつなげる結果であるとともに、量子多体系のカオスの本質であるダイナミクスの複雑性・ランダムネスを定量化する新たな枠組みである。以上の成果をまとめた論文は、Physical Review Aから出版予定である。
量子多体系の研究の応用として、量子アニーリングに関する研究を行った。量子アニーリングは、量子統計力学を基にした組み合わせ最適化問題の発見的解法であり、ハードウェアの性能の評価について盛んに研究がなされている。孤立系については多くの先行研究があるが、実際のハードウェアは完全には孤立しておらず、外部環境からの熱的なノイズの影響をうける。外部ノイズは、一般に解の精度を悪化させ、量子アニーラーの性能を低下させる。我々は量子アニーラーを実際に用いた研究により、アニーリングの途中で横磁場を急激に0 に変化させるクエンチを行うことで、最適解を見つけるに要する時間を改善できることを明らかにした。また、先行研究で提唱されたfreeze-out 仮説が成立していることを確認した。得られた研究成果について、国際会議と国内学会において発表を行った。
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