1億件以上もの膨大な数の化合物から薬剤候補化合物を計算機で選別するバーチャルスクリーニングは、薬剤開発の初期段階における重要技術とされている。本研究は、従来手法では1億件の処理に数十年を要するタンパク質-化合物ドッキング計算について、化合物部分構造(フラグメント)の計算結果の再利用を行う手法を開発し、速度的にも精度的にも良好な手法を開発するものである。平成30年度は、【1.ドッキング手法の精度改善】および【2.薬剤開発への応用】を実施した。以下に研究成果を示す。 【1.ドッキング手法の精度改善】平成29年度までに開発した、部分構造の計算結果の再利用に基づくドッキングツールのプロトタイプについて、複合体構造を評価するスコア関数が同類のAutoDock Vinaに比べて精度が劣ることが判明した。フラグメント分割に基づく「複合体構造の探索手法」と「スコア関数」が協調的に機能していないことが考えられたため、衝突項の一時的な緩和などの改善を行い、精度を向上させた。 【2.薬剤開発への応用】ドッキング手法の熱帯病(NTDs)薬剤開発への応用として、ウエストナイル熱ウイルスとの関連が示唆されているc-Yesタンパク質とのドッキング計算を行った。タンパク質ファミリーに属するc-Srcの結晶構造(PDBID: 3G6G)からモデリングを行うことでc-Yesタンパク質の構造を推定し、この構造に対してZINC15に登録されている化合物をドッキングした。結合様式を目視で精査したところ、パノビノスタットの名称で知られる承認済薬剤などが上位に存在しており、既存薬剤を別の用途に利用するリポジショニングによる薬剤開発が可能であることが示唆された。 以上の研究成果に加え、部分構造の計算結果の再利用を最適化するアルゴリズムがComputational Biology and Chemistry誌に掲載された。
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