研究課題/領域番号 |
17J06911
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
徳山 奈帆子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 集団間関係 / 攻撃交渉 / ボノボ |
研究実績の概要 |
本研究は一集団のボノボに注目し、各個体の集団内、集団外の個体との関係を比較することで、個体間の関係が集団間の関係にどのような影響を及ぼすか解明することを目的としている。申請時の研究計画の通り、採用第一年目の本年度は調査地におけるデータ収集を主とした研究活動を行った。詳細は次の通りである。
1.コンゴ民主共和国・ルオー学術保護区における野生ボノボの生態調査: コンゴ民主共和国・ルオー学術保護区(ワンバ)において、H29年8月‐H30年2月まで野生ボノボの行動観察を行った。保護区内には、行動圏が重複する4つのボノボの集団(E1、PE、PW、BI集団)が生息している。このうちPE集団を中心として観察を行った。102日間中46日において、PE集団と他の集団の出会いが観察された。これまで、攻撃的交渉について予備的な分析を行った。オスでは集団が出会うと自集団に対する寛容性を高め、協力して他集団に対抗していた。このことから、オスでは集団間にある程度の競合関係があることが示された。一方メス同士の攻撃交渉は集団内でも集団間でも非常に頻度が低く、異集団のメス同士が協力してオスを攻撃することもあった。この傾向から、ボノボにおいて集団への帰属意識はメスとオスとで異なると考えられる。
2.ルオー保護区のボノボ地域個体群の血縁構造の解明: 京都大学霊長類研究所の院生と共同で研究を行った。集団間の交尾による遺伝的交流の程度を、糞から抽出したDNA試料を用いてルオー学術保護区に生息する隣接3集団の全個体の血縁鑑定を行って解明し、結果をRoyal Society Open Science誌に発表した。ボノボにおいて集団間交尾による集団同士の遺伝的交流は少ないことがわかった。集団内間の血縁構造はチンパンジーとボノボの間で違いはなく、両種の集団間関係の違いは血縁選択以外の要因により生じていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年度は6か月の調査を行い、個体識別に基づく精密な社会的交渉のデータを収集することができた。集団の出会いが起こる頻度は果実量変動により年ごとに異なるが、2017年度は非常に頻度が高く、調査を行った日のうちほぼ半分で集団の出会いを観察することができた。このように運にも恵まれ、集団間の攻撃的交渉や、毛づくろい、遊びといった親和的交渉のデータを予想以上に多く収集することができた。このようなデータは世界で唯一のものであり、人類学にも動物行動生態学的にも非常に価値があるものであると自負している。 共同研究として進めていた、地域個体群の遺伝的構造や、集団間の遺伝的交流の程度を明らかにした研究をRoyal Society Open Science誌に発表した。また、博士課程の間にデータ収集・分析を行った、野生ボノボの集団移動の際のリーダーシップについての研究を、動物行動生態学の分野で代表的な雑誌であるBehavoiral Ecology and Sociobiology誌に発表することができた。しかし、海外での野外調査に集中したため学会発表が少なかったことが反省点である。来年度もデータ収集を続けるとともに、アウトプットも積極的に行っていきたい。8月に行われる国際霊長類学会において本研究の途中経過的な結果を報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度も、コンゴ民主共和国・ルオー保護区における、野生ボノボの集団内・集団間の社会交渉に関するデータ収集と結果の分析を行う。2018年10月‐12月、2019年3月‐8月の合わせて9か月間のコンゴ民主共和国への渡航を予定している。保護区内に生息する4集団のボノボのうち、主にPE集団の追跡を行う。集団内・外の個体との攻撃的・親和的交渉を記録し、個体の属性(性、年齢、順位など)や出会う集団の違いによる、他集団個体に対する行動パターンの違いを明らかにする。 また、2017年度までのデータを用いて、集団内・集団間の攻撃交渉パターンの違いをまとめた論文を2018年度中に投稿・出版することを目指す。2018年7月の日本霊長類学会、8月の国際霊長類学会にて、本研究の結果を発表する。
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