本研究は一集団のボノボに注目し、各個体の集団内、集団外の個体との関係を比較することで、個体間の関係が集団間の関係にどのような影響を及ぼすか解明することを目的としている。コンゴ民主共和国・ルオー学術保護区(ワンバ)において、 採用期間中に計13か月の野生ボノボの行動観察を行った。集団内、間の攻撃交渉パターンの比較により、集団間の関係が寛容であることが考えられてきたボノボにおいても、集団間のオス同士に繁殖を巡る競争が生じていること、一方でメス同士は集団の所属を越えての協力関係(連合攻撃行動)が存在しうることを明らかにした。集団間の攻撃交渉中の協力行動はこれまで集団性のヒト以外の動物ではほとんど知られていないものであり、非常に重要な成果であると言える。この結果をR1年10月にAmerican Journal of Physical Anthropology誌に出版した。 また、集団間の親和的交渉(毛づくろい、交尾、メス間の同性愛的行動“ホカホカ”)について分析を行い、集団の出会いの間の他集団個体との親和的交渉の積極性には性別の組み合わせによりバリエーションがあることを明らかにした。メスは他集団のメスと積極的に毛づくろい・ホカホカを行うが、他集団オスに対しては特にそのような積極性は見せない。一方でオスについては、他集団のオスメスとの積極的な毛づくろいは行わないが、他集団のメスとの交尾には積極的であった。これらの結果は、メスにとって、他集団のメスとの社会的関係を強めることが利益をもたらすことを示唆している。本結果は、野生下の動物での集団間の積極的な親和的交渉が生じうることを示したしたものであり、ヒトの集団間関係の進化を考察するうえで非常に重要な成果であると考えられる。
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