研究課題/領域番号 |
17J06954
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
早川 尚志 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 交通史 / 環境史 |
研究実績の概要 |
本年度はオックスフォードのラザフォード・アップルトン研究所に拠点を置いて一年間在外研究を行った。オックスフォードではその地の利を活かしてオックスフォード大学、ケンブリッジ大学の図書館やロンドンのSOASや大英図書館、大英博物館などで史資料の調査を展開した。また、欧州へのアクセスの良さを活かし、バルイラン大学のAdam Silversteinやベルリン=ブランデンブルク・科学アカデミーのMarton Verなどといった交通史の第一線の研究者との議論を実現し、関連の史料や著作の写しをいただいた。 当地ではラザフォード・アップルトン研究所の研究チームにて環境史の共同研究を大きく進展させ、ダラム大学やレディング大学なども含めた国際共同研究の端緒と成した。また、オックスフォードを中心に解されるセミナー他にも参加し、史資料のみならず、当地の研究者との情報収集や情報発信に努めた。環境史側では14世紀を中心に、8-19世紀に及ぶ広範な事例を検討し、主著論文だけでも4本の論文をすでに刊行し、14世紀の異変の時期をより長期の太陽活動の中に位置付けた。 当該の研究成果について、英国、ベルギー、イスラエル、スペイン、ドイツ、オーストリア、日本などで大小様々なセミナー、研究集会に参加し、来年度のものも含めさらなる招待講演の依頼を受けるなど、その研究成果は国際的に認知を受けつつあるし、多数のフィードバックを得て、国際共同研究を展開しつつ、さらに研究を深化させつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は英国在外研究中の地の利を活かして、英国を含めて欧州各地での史料調査に徹した。文書館ごとに史資料へのアクセスの条件が大きく異なり各々の事例に対応する必要があったが、特に英国とフランスの文書館では未公刊史料を一定以上閲覧・撮影することができ、今後の実際の議論に求められる根本史料の確保を一定できたといえよう。特に史資料の絶対数が多くなる17世紀以降はあまり検討がなされていない史資料も少なくなく、研究上の価値は比較的高くなると思われる。 交通史側では、国内誌について在外研究故の地理的制約から論文改訂に困難を生じたため、投稿先を変更するなどの決断を迫られた。その一方で、オックスフォードやケンブリッジの図書館では史資料へのアクセスが日本よりも良いことを活かし、より調査に集中し、史資料の撮影、複写を進めることができた。 そのため、当該テーマについての史資料の収集と読解が進み、ティムール朝期の宿駅群に対する隊商の規模を叙述史料に現れる事例に沿って検証した。 環境史側では、17世紀周辺の気候変動についての定量的な観測記録の撮影に成功し、その解析を進めた。当該テーマについては長期の環境変動についての関心が国際的にも高まりつつあることもあり、8世紀から19世紀までの広範な話題について、長期変動・短期災害の双方の観点から広く共同研究が進行した。そのため、すでにいくつかの国際学会から招待講演の機会をいただくなど、確実に当該研究成果は世界に発信できつつあるといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はある程度の史資料収集が実現できたため、欧州各地の各地で参照できた史資料に基づいて、実際の研究の立論を進めていきたい。具体的には交通史側で検討の目処がついた14世紀後半から16世紀頃の交通体制における宿駅と隊商の関係について、今年度参照できた多言語史料の比較・批判検討を通して復元し、同時代の他地域(東トルキスタン、中原など)との比較を行うつもりである。 一方で、現地でのカタログ参照を通してさらなる未検討史料の存在が浮かび上がったことも事実である。そのため、来年度は今年度に目処をつけられた文書館の所蔵史資料をピンポイントで検討して、今年度すでに浮かびつつある作業仮説の検証を行いたい。特にすでにいただいている幾つかの招待講演の前後に史資料調査を行うことで、より効率的な研究を進めることができよう。 また、滞在中に別の時代や別の地域の交通体制についての研究成果や作業仮説に触れる機会も少なくなかった。そのため、来年度は14世紀から17世紀の内陸アジアの交通史・環境史の事例を適宜他の地域・時代の並行事例と比較することで、より精度の高い議論を行いたい。 そのため、交通史、環境史の双方について収集した史料をもとに検討を進め、必要に応じ、オックスフォードのラザフォード・アップルトン研究所やレディング大学、ダラム大学などとの共同研究他を通し、大阪を拠点に研究を進める予定である。
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