研究課題/領域番号 |
17J07055
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
早川 諒 京都大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 過負荷MIMO |
研究実績の概要 |
以前から検討していた凸最適化に基づく大規模過負荷MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)信号検出法についてのさらなる検討を行った.まず,LDPC(Low Density Parity Check)符号を用いた大規模過負荷MIMOシステムへの応用を行い,凸最適化を用いた信号検出と復号を繰り返し行う手法を提案した.計算機シミュレーションによって,信号検出と復号を繰り返し行うことで特性が大きく改善されることを示した.また,提案手法で用いる凸最適化問題の解の誤差の上界を理論的に導出した. 凸最適化とは異なるアプローチとして,圧縮センシングに対して提案されているAMP(Approximate Message Passing)アルゴリズムの離散値ベクトル再構成への応用を行った.提案手法のDAMP(Discreteness-aware AMP)アルゴリズムは,解きたい問題がある特定の性質を満たす場合,上記の凸最適化に基づく手法に比べて少ない計算量で良い特性を得られる.さらに,状態発展法と呼ばれる理論を用いて,提案手法の漸近的な特性を評価し,再構成に必要な条件を導出した.これにより,このアルゴリズムを用いた大規模MIMO信号検出が成功するための条件が得られ,受信アンテナが送信ストリーム数よりも少ない場合でも信号検出が成功する場合があることが示された. センサネットワークなどのシステムにおいて送信信号などの観測を行う場合を想定し,従来のAMPアルゴリズムを分散的に実行するアルゴリズムを提案した.提案アルゴリズムを用いることにより,各センサは自分の近傍にあるセンサとのみ情報交換を行って信号検出を行うことが可能になる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
凸最適化を用いた大規模過負荷MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)信号検出に関する理論解析結果を得たことにより,今までなされていなかった理論的な検討が進んだといえる.さらに,LDPC (Low Density Parity Check)符号の復号と提案信号検出法を組み合わせた手法は,従来の手法では得られない特性を達成可能であり,応用上重要な結果である. 近似メッセージ伝搬(Approximate Message Passing, AMP)アルゴリズムのアイデアに基づく提案手法は,SOAV最適化に基づく手法よりも低演算量であり,その漸近的な特性が理論的に解析可能であると言う特徴がある.対象とする線形観測モデルに制限はあるものの,大規模過負荷MIMO信号検出の代表的なモデルにも適用可能であるため,得られた成果は理論と応用の両面で大きな意義があるといえる. また,新たに提案した分散AMPアルゴリズムはセンサネットワークなどの分散的なシステムへの適用が可能であり,応用上重要な結果であると期待できる. 以上の理由より,本研究課題はおおむね順調に進展していると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでは目的関数が凸になるようなクラスのみの範囲で検討を行っていたが,圧縮センシングの分野では非凸な目的関数を用いることで良い特性を達成できる場合があることが示されている.それらの結果を応用し,より良い特性を達成する信号検出法の開発に取り組む. AMP(Approximate Message Passing)アルゴリズムの特性は,問題のサイズが小さい場合に大きく劣化することが知られている.そこで,応用上重要である有限なサイズの問題に対しても良好な特性を達成するための検討を行う.また,観測行列が特定の構造をもつ場合の検討も行う.
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