研究課題
これまでに合成に成功した、欠陥の規則配列と酸素八面体回転を組み合わせた新規強誘電体の物性評価を中心に行った。カチオン欠陥配列を利用した新規物質については、焼成条件を工夫することで理論密度の95%近い焼結体をえることに成功した。この焼結体を用いて自発分極の外部電場依存性を測定したところ、強誘電体に特徴的なヒステリシス曲線が観察され、強誘電体であるという実験的な証拠を得ることに成功した。さらに、海外の中性子施設において、高分解能の中性子回折測定も行った。酸素欠陥配列を利用した新規物質については、当初の計画通り磁性イオンの導入に成功し、中性子回折パターンに現れる磁気秩序由来の反射の温度依存性を追跡することで、磁気転移温度が750 Kと室温以上であることを明らかにした。また、室温で強磁性的な挙動も観察されている。多結晶試料に加えて、エピタキシャル薄膜を得る方法も検討しており、今後は薄膜試料を用いた物性評価も併せて行っていく予定である。これまでに発見していた新規強誘電体(Sr,Ca)3Sn2O7の構造相転移を詳細に調べ、Aサイトカチオンの大きさが相転移温度に与える影響を調査した。Caの固溶量が増えるに従って、相転移温度が上昇することを明らかにした。さらに、得られた結果を、過去の同じ構造を持つ強誘電体に関する報告と併せて整理した。その結果、化合物の構成イオンによらず、転移温度と許容因子の間に普遍的な線形関係が成立することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
H30年度は、昨年度合成に成功した物質を対象として、物性評価を中心に行った。強誘電性や強磁性など、期待していた物性が発現していることを実験的に証明するデータを得ることができた。また、A3B2O7型の層状ペロブスカイト強誘電体において、AおよびBの構成イオンの如何によらず、イオン半径から計算できる単純な幾何的パラメータである許容因子が、強誘電相転移温度と線形に相関するという法則を見出した。この関係式は、相転移温度のチューニングや予測に利用することが出来る。一方で、同種の普遍的な関係は、BaTiO3をはじめとした従来の強誘電体においては見出されていない。従って、酸素八面体回転を利用した強誘電体群の新しい優位点を示す重要な結果でもある。本成果は、アメリカ化学会の英文誌であるJournal of the American Chemical Societyに掲載された。
今後は、カチオン欠陥型の強誘電体に関する結果を論文としてまとめる。また、酸素欠陥配列型の物質については、磁性と誘電性のカップリングを評価する。
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Journal of the American Chemical Society
巻: 140 ページ: 15690~15700
10.1021/jacs.8b07998