研究課題/領域番号 |
17J07112
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
飯田 慎仁 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 天然変性蛋白質 / 分子動力学法 / 拡張アンサンブル法 / 自由エネルギー地形 |
研究実績の概要 |
固有な立体構造を持つ蛋白質は、その形を基に選択的に生体分子を認識している。 一方、固有な立体構造を形成しない蛋白質(ディスオーダー蛋白質)あるいは領域(ディスオーダー領域)は、結合と折りたたみを伴う分子認識を行なっている。ディスオーダー蛋白質(領域)は蛋白質間相互作用ネットワークの核として機能することが多く、結合と折りたたみを伴う分子認識により多様な生体分子と相互作用する能力も発揮できる。しかしながら、原子レベルでどのように分子認識がおこなわれているかの完全な理解はなされていない。 ディスオーダー領域を持つ蛋白質の有名な例としてp53蛋白質がある。p53は転写因子としても知られており、DNAに結合することで標的遺伝子を活性化し、細胞死や細胞周期の停止、DNA修復を誘導する。 これらの機能は、p53に含まれる、あるディスオーダー領域(C末端ドメイン:CTD)が制御している。このCTDは複数の生体分子と相互作用することがしられており、複数の複合体構造が同定されている。本研究において私はp53 CTDに着目し、CTDのS100Bに対する分子認識過程を理解する。 p53 CTDは柔軟な分子認識機構をとるので、原子レベルで分子認識過程を理解するにはその統計的な性質を調べる事が必要である。そこで有効であると考えられる手法の一つとして全原子分子動力学法であるが、通常の分子動力学法では多様な構造を探索するには適さない。そこで私は、高効率な立体構造探索を行える、マルチカノニカル分子動力学法を使用した。 計算から得られたS100B-CTD複合体構造の自由エネルギー地形を算出した。この地形により、比較的安定な複数のS100B-CTD複合体構造が存在することを示すことができた。これら結果を統合しCTDの分子認識を明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象としてp53蛋白質に注目した。p53のディスオーダー領域は構造的柔軟性を持ち、それゆえにその領域の分子認識機構を実験的に調べることは容易でない。しかし、高効率な立体構造探索手法である仮想系とカップルしたマルチカノニカル分子動力学法(V-McMD)を使用することで、p53の分子認識を原子論的に明らかにした。本研究は世界的にみても極めて大規模な計算であり、V-McMDをはじめとする高効率サンプリング法の蛋白質間相互作用への有用性を示すことができた。また、p53はがん抑制蛋白質であり創薬ターゲットしても興味ふかい。本研究から得られた知見はp53に対する新規標的薬を設計する際の指針になりうる。すでにこれらの研究成果は、国内外の学会やシンポジウムで発表した。本研究をその内容の一部とし、本研究以前の研究内容もくわ、大阪大学大学院理学研究家生物科学専攻において、平成30年3月22日に博士学位を取得した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の妥当性を評価するために、生化学実験との比較を行う。具体的には、核磁気共鳴法によりえられた核オーバーハウザー効果と化学シフトとの比較を行う。近日中に、得られた結果を論文にまとめる。 その後、他のp53結合蛋白質に対する計算を行うことで、ディスオーダー蛋白質の物理化学的性質を明らかにする。今年度においても計算資源が確保できているので計算の実行には問題はない。
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