研究課題
太陽光エネルギーを利用した水分解反応による水素製造は、化石燃料を代替するクリーンで持続可能なエネルギーシステムを担うと期待される技術の1つである。その中で、p型半導体電極(光カソード)とn型半導体電極(光アノード)を組み合わせて構築される2段階光励起型の光電気化学セルは、長波長に吸収端を有する非酸化物材料を用いることができるため、太陽光エネルギーを効率的に利用し得るシステムとして期待されている。当年度は、非酸化物系光カソードの耐久性を改善することを目的とし、まずRuO2をコート層とする表面修飾を検討した。RuO2は安定な酸化物であるだけでなく、水素生成触媒としても高活性であると報告されていることから、保護層だけでなく水素生成触媒としての役割をも担うことが可能である。したがって、従来担持されていたPt触媒を置換する形でRuO2を導入することができた。結果、0.6 VRHEの高電位かつ強塩基性の電解液中にも関わらず、10時間以上有意な劣化なしに安定して水素を生成することが明らかになった。RuO2による表面コートにより、光カソード単極での安定性は大きく改善した。しかしながら、光アノード存在下の光電気化学セルでは、数時間以上の長時間動作では依然として緩やかな低下が確認された。電極表面の分析から、この時間スケールにおける電流低下は、金属イオン溶出による光アノードの劣化に加え、その溶出した金属カチオン種による光カソード表面の被毒が原因であると明らかになった。この問題に対しては、キレート樹脂の添加を、水分解系で初めて検討した。樹脂表面のキレート剤が、金属イオン種を吸着・捕獲することにより、被毒を抑制すると期待されたためである。その結果、被毒抑制効果により、約2日間の長時間安定動作の実証に成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、目標としていた安定性は数時間程度だったが、現状数日間のスケールでの安定動作を実証している。また、一般に半導体材料が化学的に分解しやすくなる強塩基性条件においても、安定動作を可能にした。このように、現在達成されている耐久性は、当初の計画以上のものである。加えて、従来使用されていた、貴重かつ高価な元素である白金の代替を実現できた点も、当初予期していなかった成果である。加えて、半導体光電極セル特有の現象として、光アノードから光カソードへの金属カチオン種の移動の観測とその制御にも成功し、新たな知見を得ることができた。本知見は、光電極にたいして一般的に応用可能である。一方で、もう一つの目標である効率向上については、顕著な効率改善は未だ達成されていない。現状用いている組成では、安定な結晶の形成条件が比較的限られていることが原因の一つであることが判明した。次年度では、これを改善するため、材料の化学的組成の改良も検討する。
前年度の成果を踏まえ、本年度は、さらなる高いエネルギー変換効率の達成を狙う。まず、(ZnSe)0.85(CIGS)0.15光カソードの量子効率には30-40%程改善の余地があることから、材料置換及び成膜プロセスの改良による効率向上を図る。また、前年度の成果により、従来の弱塩基性の電解液条件に加えて、強塩基性条件における光電気化学セルの安定駆動も可能になった。これにより、強塩基性条件での駆動が報告されている窒化物や酸窒化物系の光アノードの利用も検討する。これらの材料は、昨年度まで用いてきた酸化物系光アノードよりも吸収端波長がより長波長側に存在することから、太陽光を効率的利用が可能となり、高いエネルギー変換効率の達成が期待される。さらに、前年度の研究結果から、光アノードにおいては金属カチオン種が溶出し、これにより光カソードを被毒する現象が起こることも明らかとなった。これに対する本質的な解決のために、光アノードに対する表面保護も検討し、光電気化学セルの数日間以上の安定動作実証も継続して試みる。
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