小児麻痺(急性灰白髄炎)の原因となるポリオウイルスはmRNAの5'非翻訳領域に存在するInternal Ribosome Entry Site(IRES)と呼ばれる配列を利用して翻訳を開始させ、ウイルス蛋白質を合成する。これまでの研究から、私は、ポリオウイルス野生型IRES中に弱毒化を引き起こす変異が存在すると、神経細胞抽出液におけるIRES依存的翻訳が著しく阻害されることを明らかにしてきた。これは変異型IRES依存的翻訳を神経特異的に阻害する宿主因子(神経特異的因子)の存在を示唆している。 そこで、本研究では、変異型IRES依存的翻訳を阻害する神経特異的因子の同定を試みた。これまでの研究から、神経特異的因子は翻訳反応の中心となるリボソームに結合して機能していること、神経特異的因子を非神経細胞のリボソームに結合させても機能的に働くことを明らかにしている。また、質量分析によって神経特異的因子の候補も選出されていたため、本研究ではそれらの候補から変異型IRES依存的翻訳を阻害する因子を探索した。その結果、候補の中から、変異型IRES依存的翻訳を阻害する神経特異的因子(Factor X)を同定した。 以上の研究から、ポリオウイルス変異型IRES依存的翻訳はFactor Xによって神経特異的に阻害されていると考えられる。Factor Xは翻訳装置であるリボソームに結合する因子であるため、ポリオウイルスIRES依存的翻訳だけでなく、宿主が行うcap依存的翻訳に対しても神経特異的制御を担う可能性がある。そのため、cap依存的翻訳に対するFactor Xの機能解析を行うことで新たな翻訳制御機構が明らかとなることが期待される。
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