研究課題/領域番号 |
17J07226
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
李 煕永 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 分布型光ファイバセンサ / ブリルアン散乱 / プラスチック光ファイバ |
研究実績の概要 |
本課題では、光ファイバに沿った任意の位置で歪や温度に加えて損失の分布も高速で測定する「傾斜利用ブリルアン光相関領域反射計(SA-BOCDR)」の性能向上および実用化に取り組んでいる。平成28年度まで、基本動作の確認や様々な動作特徴は調査されていたが、分布型センサの重要な性能の一つである空間分解能の制限や大歪の測定を可能とするプラスチック光ファイバ(POF)を適用したときのシステムの挙動については未解明であった。そこで、平成29年度は (1) SA-BOCDRの空間分解能の上限を解明、および (2) SA-BOCDRのセンシング光ファイバとしてPOFを導入したときの挙動の調査を中心に研究を推進した。 (1) の成果としては、本システムでは従来の理論空間分解能の約50分の1程度までの歪・温度印加区間を検出可能であることを示した上に、あらゆるブリルアン分布センシング手法の世界記録を凌駕する2mmのホットスポットを実験的に検出することに成功した。なお、理論的にはサブミリメートルの歪・温度印加区間も検出可能であることを示した。(2) の成果としては、POFの大きい伝搬損失(従来使用されてきたガラス光ファイバの約100倍)による歪・温度の測定感度のファイバに沿った位置依存性を定量的に調査し、信号処理によって補正することで、2か所の歪・温度印加区間を正しく検出することに成功した。なお、(1) の成果と組み合わせて、POF中の5mmの高温区間の検出に成功した。これは、従来記録の約20倍短い値であり、POFによる分布センシングの新たな応用領域を拓くものであると考えられる。 上記2点の他にも、様々な実験条件に対する測定感度の依存性を調査し、システム出力を補正することで正しい分布測定を可能とするなど、SA-BOCDRの性能向上および実用化に向けて精力的に研究を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題では、光ファイバの中の任意の位置で歪や温度の分布を高速で測定する 「傾斜利用ブリルアン光相関領域反射計(SA-BOCDR)」の実用化に向けた性能向上や小型化・低コスト化の研究を行っている。平成29年度は、大歪の測定が困難だった従来のシステムに柔軟性の高いPOFを導入することで、システムの性能をより向上させることができた。また、入射光パワーや理論空間分解能などの実験条件が本システムの測定感度や精度に与える影響を明らかにしたため、システムの実用化に一歩近づいたといえる。他にも、様々な方式のブリルアンセンサの世界記録を超えたホットスポットの検出にも成功した。これらの成果は当初の計画以上の進展であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当面は、SA-BOCDRの安定性向上に重点を置いて研究を進める予定である。具体的には、(1) 曲げに強い光ファイバの導入、(2) 偏波保持光ファイバの導入、(3) 複数の周波数におけるパワーの比の利用、を考えている。以下、その詳細について説明する。(1) SA-BOCDRは、歪や温度と同時に損失の分布も測定可能である。これはメリットとなる場合もある一方、正確な歪・温度の分布測定を阻害する要因ともなる。そこで、通常のファイバより曲げに強い特殊光ファイバを利用し、意図しない損失の影響を低減しようと考えている。(2) 従来のシステムでは、偏波状態の変動を抑える(平均化する)ために、偏波スクランブラという装置が必要であった。しかし、偏波保持ファイバを導入することで、偏波スクランブラを使わずにSA-BOCDRが実装できると考えられる。最適な偏波状態を利用できるので、従来のシステムよりも感度および信号対雑音比を改善できる可能性もある。さらに、システムのコストの低減にもつながる。(3) 特殊な光ファイバを用いずに意図しない損失の影響を回避する手法の需要も高い。そこで、ブリルアン散乱スペクトルの複数周波数におけるパワーを同時に観測し、両者の比を歪・温度に関連付ける「プッシュプル法」に基づき、これを実現する計画である。 以上の流れでシステムの安定性を向上させた後、SA-BOCDRの実用化に向けた小型化・更なる低コスト化を推進したいと考えている。具体的には、エルビウム添加光ファイバ増幅器を除去したり、電気スペクトルアナライザのゼロスパン機能をローカルな電子回路で実装したりすることを考えている。数年後には、可搬性が向上したシステムを用いて、種々の応用先でフィールドテストを行い、本システムの有用性を示すデータを蓄積していきたい。
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