研究課題
本研究では、社会インフラの健全性を診断する手法として、散乱スペクトルの形状を活用した分布型光ファイバセンシングシステム「傾斜利用ブリルアン光相関領域反射計」を提案し、その性能向上および実用化を推進している。平成29年度まで、従来の手法では困難であった損失の分布を測定する機能やリアルタイム動作性、世界最短のスポットを検出する機能など、本システムが数多くの利点を有することを示していたが、乗り超えるべき未解決の課題も多く残っていた。そこで、平成30年度は (1) 意図しない損失の影響の除去、(2) 偏波揺らぎの低減による安定性の向上、(3) 10 kmを超える長距離での動作の実証、(4) 測定ファイバを複合材料に埋め込んで変形を加えたときの歪分布の実時間測定を中心に研究を行った。(1) の成果としては、曲げに強い特殊光ファイバを導入することで、測定ファイバ中に曲げ損失が生じても、2か所の歪・温度印加区間を正しく検出することに成功した。(2) の成果としては、測定ファイバとして偏波保持ファイバを適用し、偏波揺らぎの影響を低減するとともに、最適な偏波状態を保つことで測定感度を向上させることができた。(3) の成果としては、参照光路に挿入する遅延ファイバの長さを工夫することで、10 km 遠方にて 3 mのホットスポットの検出に成功した。最後に (4) の成果としては、構造物を模擬した複合材料に埋め込んだ光ファイバに沿った歪分布および破断点の検出をリアルタイムで行うことに成功した。上記の4点の他にも、システムの背景雑音の低減による歪ダイナミックレンジの向上や電気スペクトルアナライザ(ESA)の撤廃によるシステムの小型化・低コスト化など、SA-BOCDRの性能向上や実用化に向けて様々な研究を推進している。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度も「傾斜利用ブリルアン光相関領域反射計(SA-BOCDR)」の性能向上に取り組んだ。前述のように、安定性の向上や長距離測定の実現、実応用に近い環境での動作実証など、システムの実用化に向けた様々な研究成果が得られた。中でも、偏波変動を抑制して安定性を向上させることで、歪や温度に対する感度までも向上することが明らかになったのは大きな収穫であった。また、長距離動作として数kmを想定していたところ、10 kmを超える距離でも動作を実証できたことも幸いであった。複合材料に埋め込んだ光ファイバに沿った歪分布を精度よく検出できたのも今後の実用を促進する結果であった。以上のように、想定以上の結果が得られ、これらは4編の査読付き学術論文に掲載されるに至っている。よって、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
今後は、SA-BOCDRの実用化に重点を置いて研究を進める。具体的には、(1) システムの背景雑音の低減による歪ダイナミックレンジの向上、 (2) レーザ周辺機器の簡素化や電気スペアナ(ESA)の撤廃によるシステムの小型化・低コスト化、を考えている。以下、詳細について説明する。(1) SA-BOCDRは、ブリルアン散乱スペクトル上のある周波数でのパワー変化を観測することで動作する。そのため、システムの歪ダイナミックレンジは散乱スペクトルの幅で決まると考えられるが、実際には、散乱スペクトルに含まれているBOCDR特有の背景雑音(非測定区間からのブリルアン信号)によって大きな制限を受ける。そこで、空間分解能を意図的に劣化させ、背景光雑音の一部の成分を歪に依存させることで、歪ダイナミックレンジを向上できると考えられる。(2) SA-BOCDRでは、光源の周波数を変調することで位置分解を実現するが、その際、レーザの駆動電流を精密に制御するために種々の大型電気機器(任意波形発生器、温度コントローラなど)を使用している。また、散乱スペクトルの傾斜のある周波数でのパワー変化を取得するために、大型装置であるESAのゼロスパン機能を使用している。そこで、レーザ周辺の装置構成を簡素化し、ESAを撤廃することで、システムの小型化・低コスト化を実現できると考えている。レーザ周辺の装置については、まず、任意波形発生器をチップ型に変更する。次に、SA-BOCDRでは散乱光と参照光の差周波数が重要であり、絶対周波数が変動しても大きな影響はないと考えられるため、温度コントローラを撤廃して安価なレーザを用いても正しく動作する可能性がある。一方、ブリルアン散乱信号をビートダウンし、ノッチフィルタと一般的な光検出器を組み合わせれば、ESAと同様のゼロスパン機能が実現できると考えられる。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 4件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (44件) (うち国際学会 18件、 招待講演 9件) 備考 (1件)
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