フサオマキザルが、生じうる忘却を予想し準備的に情報を希求するか、そして、その予想には、遅延時間情報だけではなく、自身の記憶状態の認知も用いられるかを以下の3つの実験を通して検討した。 (実験1)遅延時間を明示するシグナルを付した遅延見本合わせ課題に、遅延終了時での見本の再呈示を希求する選択肢を設けた。遅延時間の長短は試行間でランダムに操作した。その結果、3個体中2個体は、遅延が長いと予告された場合に、より頻繁に見本の再呈示を希求した。これはフサオマキザルが、「遅延が長いほど忘れている可能性が高い」という判断を行った可能性を示唆する。 (実験2)最初から見本を呈示しない、すなわち、被験個体が、希求するかを選択する時点で見本の記憶を全く有していない状況を設けた。その結果、記憶痕跡を有していないからといって、より頻繁に再呈示を希求する行動はみられなかった。 (実験3)見本呈示後に妨害刺激を呈示し、選択時点の記憶痕跡を弱める試行を設けた。その結果、判断時点での記憶痕跡が弱いからといって、より頻繁な再呈示希求を行った個体はみられなかった。 以上の結果により、遅延時間以外の手がかりの使用がみられなかったため、公的手がかりだけを用いた可能性を否定することはできない。しかし、遅延時間シグナルの長短だけで選択を行っている可能性は低いと考えられる反応を示した個体はいた。このことから、フサオマキザルは、時間経過によって記憶忘却が生起することを認識し、事前に情報を希求するようであるが、その判断に記憶状態の参照は含まれない可能性が示唆された。
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