研究課題/領域番号 |
17J07242
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐々木 周作 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 行動経済学 / ナッジ / フィールド実験 / 政策評価 / 健康行動 / 寄付行動 / リスク選好 / 社会選好 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、大きく二つの方針の下で、研究活動を行った。一つは、個人の行動経済学的特性が、公共・非営利セクターにおいて政策的に重要とされている個人の行動にどのような影響を与えるか、を検証する実証研究である。具体例として、行動経済学におけるリスク選好が日本人女性の乳がん検診の受診行動にどのような影響を与えるか、を40歳以上の日本人女性にアンケート調査を実施して、その回答を用いて実証的に分析した。従来、リスク選好と健康行動の間には、リスク回避的な人ほど積極的な健康行動を取りやすい、という結果が多く観察されていたが、米国およびフランスで実施された二つの実証研究では、リスク回避的な人ほど乳がん検診を受診しにくい、という真逆の関係性が観察されている。筆者らの研究チームは、日本人女性を対象にしたときにも同じように観察されることを確認した。さらに、筆者は、日本ファンドレイジング協会と協力して、当協会が実施する「全国寄付実態調査」の調査票のなかに行動経済学的特性を把握する質問を設定し、日本の全国代表標本において行動経済学的特性が寄付行動にどのような影響を与えるか、を実証的に分析した。その成果の一部を、当協会と共に、一般向け書籍にまとめて出版した。 もう一つは、個人の行動経済学的特性を踏まえてその特性を活用した政策介入を考案して、フィールド実験という手法を使用してその政策介入の効果を検証する実験研究である。平成29年度にはフィールド実験の準備作業および実施作業を行った。具体的には、乳がん検診の受診を促進するためのフィールド実験研究などを含めて複数のフィールド実験を実施して、それぞれについて実験データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究活動から、期待通りの成果を得た。第一に、日本国内の企業と協力して、行動経済学的特性と残業時間との関係に関する実証研究を行った。その成果をまとめた日本語論文は、査読付き論文として刊行された。また、他分野の研究者や実務家と協力して「全国寄付実態調査」を実施した。調査票に行動経済学的特性を把握する質問を設定し、日本の全国代表標本において行動経済学的特性が寄付行動にどのような影響を与えるか、を把握した。その成果をまとめて一般向け書籍として出版した。さらに、4編の英語論文が投稿中あるいは投稿準備完了段階にある。第二に、学会やセミナーにも積極的に参加し、合計で10回の研究報告を行った。そのうち、行動経済学会の報告内容が評価されて、ポスター報告奨励賞(一般部門)が授与された。第三に、共同研究者と協力の下でフィールド実験の準備も着実に進め、年度内にフィールド実験を二回実施し、それぞれについて実験データを取得した。第四に、研究成果のアウトリーチ活動も行い、フィールド実験のための新しい協働先の開拓も積極的に行った。以上の研究活動を鑑み、本研究課題は期待通りに進捗している、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず、一つ目の「個人の行動経済学的特性が、公共・非営利セクターにおいて政策的に重要とされている個人の行動にどのような影響を与えるか」を検証する実証研究について、論文の投稿作業を継続して実施する。次に、二つ目の「個人の行動経済学的特性を踏まえてその特性を活用した政策介入を考案して、フィールド実験という手法を使用してその政策介入の効果を検証する」フィールド実験研究について、平成29年度に既に取得済みの実験データの分析を進め、その成果を国内外の学会で報告し、その後、論文化を進める。
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