研究課題/領域番号 |
17J07250
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
大場 あや 大正大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 葬儀の変容 / 葬儀の互助組織 / 契約講 / 大正期 / 火葬 / 町場 / 人口移動 / 階層構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代化による社会変動が地域社会における葬送墓制とその担い手組織にどのような影響をもたらすのかについて、日本・台湾・中国を事例に、宗教社会学的な視点から明らかにしようとするものである。これらの事例を比較分析することで、葬儀とその担い手組織という観点から東アジアの近代化と文化変容を照射することを目的としている。 本年度は、台北および上海にて基礎調査を進めつつ、日本の事例を中心に研究を進めた。東北地方南部に広く分布する「契約講」と呼ばれる生活互助組織を取り上げ、山形県最上郡最上町を事例に学会発表および論文投稿を行った。 契約講は様々な分野からの膨大な研究蓄積がある一方、成果の共有化が十分に図られてこなかった経緯があった。そこで、研究史を分野横断的に捉え直し、これまでの研究は契約講の原型(本質的属性)を究明することに関心が寄せられ、主要な研究フィールドが農山漁村に集中する傾向があったことを指摘した。本成果は、6月の学内大会にて口頭発表し、『大正大学大学院研究論集』(2018年6月発行)に査読論文として投稿した。 また、6月の「宗教と社会」学会では、これまで農山漁村をフィールドに土葬の遂行において重要な役割を果たすと捉えられてきた契約講が、最上町の町場エリア(火葬地域)に多数存在することに着目し、農村エリアの事例と比較する形で町場の契約講の特質(機能・形態など)を明らかにし、戦後における組織の変容過程を検討した。本発表を踏まえ、町場の火葬地域において契約講が結成された背景とその組織原理、および存在理由に焦点を絞り、人口移動や階層構造、資源的事情に言及しながら論文にまとめた。2018年6月刊行の『宗教と社会』誌に掲載される。なお、当地の契約講と葬儀の変容過程については稿を改め、戦後の経済成長との関連だけでなく、新生活運動や住民運動にも目配せして論じ、学会誌に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施予定の研究について、日本の事例に関しては、山形県をフィールドとした調査を予定通り進め、成果の公表についても同様に順調な報告を行うことができた。国外に関しては、国内の調査を優先させたため、基礎調査(資料収集とその分析、現地での情報収集・現状把握、およびインフォーマントへの聞き取りなど)に留まっているが、おおむね順調な進捗だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査や論文執筆を進め、学会発表において社会学以外の研究者(歴史学、人類学、法制史など)からコメントを受ける中で、一つの地域社会における歴史社会的背景や階層構造、社会関係・社会集団等の把握に加え、当時の政策や地主制、生活改善に関する新しい考えの影響など様々な側面からアプローチする必要性が示唆された。そのため、現在調査を進める山形県の事例をいま一度しっかり考察すべきと判断し、海外調査に対する国内調査の比率を上げることにした。日本の事例において調査・分析を深め、葬儀変容のメカニズムやそのパターンを解明することは、海外での調査においても有益だと考えたからである。よって次年度は、前半期は主に国内での調査および成果発表を進め、後半期は上海・台北での調査を行う方針を立てている。 上海市および台北市では、前年度に引き続き文献調査と聞き取り調査を行い、葬儀に関する法律や政策を踏まえ、葬法と地域特性の違いに着目して葬儀の変容過程の比較検討を試みたい。
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備考 |
・大場あや、「葬儀互助と契約講」、国立歴史民俗博物館編『歴博』第206号、2018年、6頁。 ・大場あや、「町場における葬儀の合力組織―最上町の契約講を事例として―」、『宗教学論集』第37輯、2018年、73-74頁。
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