研究課題/領域番号 |
17J07322
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
田代 晋也 山形大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | オルガネラ間コンタクト / ミトコンドリア / ER / 小胞体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は哺乳類細胞においてミトコンドリア・ER間コンタクトを制御する因子を,遺伝学的スクリーニングにより同定することである。二年目の目標は,初年度で樹立した定量系を用いてスクリーニングを行い,ミトコンドリア・ER膜間コンタクトを制御する因子の候補を特定することである。 本年度では昨年度樹立されたsplit GFPを用いた膜間コンタクト定量系を用いてsiRNAスクリーニングを行い,オルガネラ膜間でのsplit GFPの再構成を阻害する遺伝子を複数同定した。さらに同定された遺伝子のいくつかについては免疫染色を行い,細胞内での局在を解析した。 樹立した定量系について条件検討したのち,樹立した系と18000種の遺伝子のsiRNAライブラリを組み合わせてスクリーニングを行なった。具体的には,各siRNAにより標的遺伝子のタンパク質発現を阻害後,細胞内の蛍光強度を蛍光顕微鏡を用いて定量した。 スクリーニングの結果,いくつかの既知のコンタクトサイト制御因子について,split GFP膜間再構成への影響が観察された。これは本研究で行なったスクリーニングが機能していることを裏付けるものである。 一方,過去にコンタクトサイトへの寄与が報告されていない多くの遺伝子について、split GFPの膜間再構成への影響が検出された。そこで次にこれら因子について検証を進めた。 Split GFPの膜間再構成への影響の大きかった遺伝子をいくつか選び,siRNAスクリーニングの再現性を確認した。そしてsplit GFP再構成への影響の再現性が確認された遺伝子について,抗体を用いた免疫染色法で局在を検証した。いくつかの遺伝子がミトコンドリア・ER両オルガネラに局在し,GFP膜間再構成を阻害したことから,これら因子を現在コンタクトサイトを制御する候補として解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は遺伝学的スクリーニングによりミトコンドリア・ER間コンタクト制御因子を同定し,その生理的意義を解明することである。昨年度までの研究で,HeLa細胞内でのミトコンドリア・ER間コンタクトを,膜間でのSplit GFPの再構成に伴う蛍光量で定量する系が樹立された。 本年度の研究では,昨年度樹立された系を活用してsiRNAスクリーニングを実施した。約18000種類の遺伝子についてのsiRNAライブラリと,昨年度樹立した定量系を組み合わせ,siRNAのコンタクトへの影響を蛍光顕微鏡観察によって解析した。結果,split GFPの再構成に大きな影響を与える遺伝子として、既知のコンタクト因子をいくつかと、さらにこれまでオルガネラ膜間コンタクトとは関連づけられていなかった新規因子を複数種特定した。これらの新規因子について免疫染色法と蛍光顕微鏡を組み合わせて細胞内での局在を観察したところ、いくつかの因子についてはミトコンドリア・ER両者の一部に共局在する様子が観察された。 本年度実施したスクリーニングでは,既知のコンタクト因子の中のいくつかの遺伝子もsplit GFPの膜間再構成に影響を与える因子として特定されている。これは本研究で樹立した定量系の有効性を示唆していると言える。また本年度特定された因子中にミトコンドリア・ER両者に共局在する因子が特定されたことも、本スクリーニング系の有用性を示していると考えられる。またこれら因子の中には、これまでオルガネラ間コンタクトとは全く関連づけられていなかった遺伝子が多数含まれていた。この結果はコンタクト制御の生理的意義を解明する上で重要な成果である。以上より,本年度は期待通り研究が進展したと言える
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに実行したsiRNAスクリーニングの結果から、split GFPの膜間再構成に影響を与えるタンパク質が複数個選抜された。本年度の目標はこれら候補タンパク質の検証と機能解析である。 まず他の候補遺伝子についてsiRNAスクリーニングの再現性の確認を行う。今年度まででまだ解析が終了していない候補タンパク質に対するsiRNAを、一次スクリーニングで用いたsplit GFP系に添加し、スクリーニング時と同様にGFP蛍光シグナルが変化するか検証する。このようにしてスクリーニング結果の再現性が確認されたタンパク質について局在と機能を解析する。局在解析は目的タンパク質に対する抗体を用いた免疫染色法によって行う。免疫染色した細胞を蛍光顕微鏡によって観察し、ミトコンドリア、ERに局在するタンパク質を選択する。 ミトコンドリア、ERに局在し、かつsplit GFPシグナルを変化させるタンパク質について機能解析を行う。解析する機能としては、①コンタクトの面積の制御、②ミトコンドリア-ER間カルシウム輸送、③脂質輸送を計画している。①のコンタクトの面積の制御については、CRISPR-CAS9系を用いて候補タンパク質のノックアウト細胞株を作成し、電子顕微鏡によってコンタクトを観察、面積を定量する。同様の定量をsiRNAを添加した細胞についても行う。②のカルシウム輸送への影響については、細胞内カルシウム濃度センサー蛍光タンパク質をミトコンドリア・ERで強制発現させ、目的タンパク質に対するsiRNA処置の影響を、蛍光顕微鏡を用いたライブセル観察で解析する。③脂質輸送については、siRNAを添加した細胞について、脂質組成を質量分析計を用いて網羅的に定量する。 以上の解析で、ミトコンドリア・ERコンタクトを構成する因子とその機能、さらにその因子の生理的意義を明らかにする。
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