研究課題/領域番号 |
17J07326
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安藤 冬希 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 電界効果 / キュリー温度 / 強磁性遷移金属 |
研究実績の概要 |
ゲート電極/誘電層/強磁性金属という素子構造を用い、ゲート電圧の印加によって磁性を制御する電界効果の研究が精力的に行われており、これまで磁気異方性やキュリー温度といった物性を制御できることが報告されている。しかし、電界効果の発現機構について微視的な観点からは十分に理解されていないため、本研究は強磁性金属における磁性の電界効果の発現機構を明らかにすることを目的とした。 強磁性金属のキュリー温度の電界変調は、室温において磁気相転移を制御する有用な手段である。その一方で、その現象は電界による電子密度や磁気異方性の変化からは説明することができず、起源が未だに明らかになっていない。一般に、キュリー温度は分子場理論によって理解され、磁性原子間の交換相互作用と隣接原子数によって定義される。そこで、本年度はキュリー温度の電界変調の微視的起源を探るために低温領域で交換定数の電界変調を評価し、実際のキュリー温度との相関を調べた。 強磁性金属として垂直磁化したPt/Co薄膜試料を用いて測定を行った。まず、電圧印加下で低温領域の磁化の温度依存性を調べることで交換定数の電界効果を評価した。次に、キュリー温度付近の高温領域での磁化の温度依存性からキュリー温度の電界変調についても評価を行った。これらを比較した結果、交換定数の電界変調の支配的な寄与によってキュリー温度が変化する、という物理機構が実証された。このことは磁性の基礎原理である分子場理論によってキュリー温度の電界効果を理解できることを意味しており、物理的に非自明な点の多い電界効果の研究分野において大きな意義を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は低温領域におけるPt/Coの交換定数及びキュリー温度の電界変調の調査を行った。測定した試料は垂直磁化したPt/Co薄膜、誘電層MgO/HfO2、ゲート電極Cr/Auから成るキャパシタ構造となっている。一般に、低温領域における磁化の減少過程は交換定数に依存するスピン波の熱励起によって説明されるため、低温領域の磁化の温度依存性を調べることで交換定数を評価した。ゲート電圧VGによってCoに電界を印加しながら、超伝導量子干渉計(SQUID)で磁化の温度依存性を測定した。磁化の減少過程が印加電圧VGによって異なることから、交換定数が電界変調されることが分かった。この磁化の温度依存性を解析することにより交換定数の電界変調を評価した。 次に、キュリー温度の電界変調を調査し上記の結果との比較を試みた。昇温によって強磁性から常磁性に転移するとき、磁化は温度のべき乗に従って減衰する。そこで、SQUIDでキュリー温度付近の磁化の温度依存性を調査し、べき乗則で解析することによりキュリー温度を評価した。その結果、キュリー温度についても電界によって変調されることを確認した。 最後に、今回の実験で得られた交換定数とキュリー温度の電圧依存性の比較を行った。これらが線形関係になることから、微視的な交換相互作用の電界変調により分子場理論に従ってキュリー温度が変化するという機構が実験的に証明された。単なる磁性の電界効果の観測にとどまらず、その微視的な起源解明に至った点において、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、強磁性金属における交換相互作用とジャロシンスキー・守谷相互作用(DMI)の電界効果を調査することによって、その微視的な発現機構を体系的に理解することである。DMIとは強磁性層と非磁性層の界面で発現する非磁性原子の電子軌道を介した間接的な交換相互作用である。初年度では交換定数の電界効果の評価を行ったがその電界変調量は非常に小さく、交換定数と比例関係にあるDMIの電界変調の観測は困難であると考えられる。そこで、今後は電界効果を大きくするためにCo/MgO界面に着目して最適な製膜条件を模索する。また、最終的には磁気光学効果を用いて磁場駆動磁壁移動を観察しDMIを評価するため、電界印加下で磁場駆動磁壁移動を観察する実験も同時に進めていく。
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