研究課題/領域番号 |
17J07391
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 史憲 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 超重力理論 / 素粒子的宇宙論 / インフレーション / バリオン数生成 |
研究実績の概要 |
私はリッチスカラーの二乗項を含む超重力理論(以降、超重力スタロビンスキー模型と呼ぶ)の素粒子現象を解明することを目的に研究を行ってきた。その方法として、まずはより一般的な超重力理論における素粒子的現象論について研究し、特にバリオン数生成に関する実績をあげた。 バリオン数生成のシナリオはたくさん考えられているが、もっとも効率がよくバリオン数を生成できるシナリオとして、アフレック・ダイン(AD)バリオン数生成がある。ADバリオン数生成は超対称性理論の枠組みで自然に記述することができるため、もっとも有力な候補の一つであると言える。ADバリオン数生成について様々な研究がなされてきたが、具体的なインフレーション模型はあまり仮定されずに考えられてきた。特に、超重力スタロビンスキー模型のように、インフレーション中と振動期で超対称性を破る場が異なる「スタビライザー型」のインフレーション模型についてはほとんど考慮されてこなかった。そこで私はこのような「スタビライザー型」のインフレーション模型でもADバリオン数生成が無矛盾に機能するかどうかを研究した。研究の結果、「スタビライザー型」のインフレーション模型では、得られるバリオン数に不定性が生まれることがわかった。これは、超対称性を破る場とAD場の相互作用がインフレーション中と振動期で異なることにより、AD場の期待値周りで動径方向の振動が引き起こされることに起因する。この振動により、AD場が回転開始する際の場の期待値が、振動の周期・振幅に依存するようになるのである。これは従来のインフレーション模型では起こり得ない現象である。この結果は論文にまとめ、国際学会で発表を行った。 また、これ以外にも、再加熱時のグラビティーノの非熱的生成や、インフラトンが「オシロン」と呼ばれるソリトンを形成する可能性についても研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私はリッチスカラーの二乗項を含む超重力理論(以降、超重力スタロビンスキー模型と呼ぶ)の素粒子現象を解明することを目的に研究を行い、上記の実績をあげた。研究計画としては、一年目は超重力スタロビンスキー模型のラグランジアンの構築を行う予定であった。しかし、幅広い素粒子現象の議論をするために、超重力スタロビンスキー模型を含むような、より一般的な超重力理論における素粒子的宇宙論の研究を行うことにした。結果として、研究計画の二年目に相当する内容を先取りして行うことになった。ただ、当初予定していた二年目の研究内容よりも非常に多くの現象(バリオン数生成、グラヴィティーノ生成、オシロン形成、原始ブラックホール形成など)について解明することができたので、研究全体の進捗としては、予想以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
一年目に行った研究内容は、超重力スタロビンスキー模型を含むより一般的な超重力理論における素粒子的宇宙論である。上記のように、これは当初の計画では二年目に行う予定の研究である。従って、今後は一年目に計画していた「超重力スタロビンスキー模型の具体的なラグランジアンの構築およびインフレーションの議論」を行うことにする。まず、New minimal 超重力スタロビンスキー模型の作用に,超対称性を破るセクターを結合させた模型を構築する。次に標準模型セクターとの結合も考えるが、この時、インフレーションセクターおよび超対称性を破るセクターとの結合は、ゲージR対称性により厳しく制限される。最後にスカラーポテンシャルを計算し、スカラー場の運動を議論する。インフレーションに必要な平坦なポテンシャルが超対称性を破るセクターのスカラー場の運動によって損なわれないかを確認する。具体的には初期密度ゆらぎの観測量の予言値を計算し,実際の観測結果と比較する。その結果、超対称性の破れのスケール等のパラメタに制限をかける。
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