研究課題/領域番号 |
17J07409
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小林 翔平 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ウミガメ / 保全 / 地球温暖化 / 性比 / 性差 / 運動性 / テストステロン / ヘマトクリット |
研究実績の概要 |
ウミガメは、孵卵温度が高温でメス、低温でオスが産生される温度依存性決定様式を持つ海生爬虫類である。また爬虫類において、孵卵温度は性別だけではなく、幼体の運動性等の生存率に関する項目に影響を与えることが知られている。以上のことから、地球温暖化がウミガメの性比に与える影響が懸念されており、孵卵温度調節や性比を基にした保全海域の選定等の保全策立案が求められている。本研究では温暖化がウミガメの性比に与える影響の全体像の把握・評価を目的とし、(1)日本のウミガメの性比算定、(2)孵卵温度がウミガメの生存率に関する項目に与える影響解明、及び(3)簡易的なウミガメの性判別法の探索を行う。そしてそれらの結果と既往研究の知見を基に、適切な保全策の提案を行う。平成29年度の研究実績を以下に記す。 (1)-1 小笠原諸島のアオウミガメ幼体の性比を算定するため、産卵巣温度とその産卵巣の性比を照合し、砂浜温度測定による性比算定式の作成を試みた。また平成30年の小笠原の性比を算定するため、8つの浜に温度ロガーを設置した。 (1)-2 外部形態測定とテストステロン濃度測定を用いて、三陸沿岸域(n=153)と土佐湾(n=18)に来遊するアカウミガメ成長個体の性別を判別し、それぞれの地域の性比を算定した。結果、三陸沿岸域はオスに偏る性比を示すのに対し、土佐湾はメスに偏る性比を示した。 (2) 高知海岸及び名古屋港水族館にて産卵されたアカウミガメの卵を孵卵器に収容し、様々な温度を経験させ、孵化後の幼体を観察した。結果、高温で孵卵すると泳力の持続能及び成長率が低下すること、及び鱗板配列奇形が誘発されることを明らかにした。 (3) 簡易的なウミガメの性判別法確立のため、容易に測定可能で性ホルモンと関連のあるヘマトクリット(Hct)値の性差を検証した。結果、アカウミガメ成長個体ではオスの方が有意に高いHct値を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は当初の予定通り研究を進めることができた。小笠原の幼体の性比算定に関して、低温孵卵の産卵巣のサンプリングが不十分であったために、砂浜の温度データを用いたアオウミガメ幼体の性比算定式の精度が現状高くはないと考えられるが、次年度のサンプリングで性比算定式の精度が格段に向上すると予想している。また、各地の成長個体の性比や孵卵温度がウミガメの生存率に関する項目に与える影響、ヘマトクリット値の性差を明らかにすることができたことは、期待通りの成果である。これらの結果を総合的に鑑みて、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
小笠原のアオウミガメの幼体の性比に関して、昨年度サンプリングが不十分であった低温孵卵巣のサンプリングを行い、性比算定式の精度を向上させるほか、砂浜の温度データを用いて、現在産生される小笠原のアオウミガメの性比を算定する。 成長個体の性比に関して、地域間で性比が異なることは、雌雄で回遊生態が異なることを示唆している。そこで、この生態の一端を明らかにするために、成長個体の安定同位体比測定を用いた食性分析や遺伝子情報の解析等を検討している。 孵卵温度がウミガメ幼体の生存率に関する項目に与える影響解明に関して、昨年度までは孵卵器内で孵化した幼体を用いていた。しかし、自然界で幼体は砂浜表面に這い出す「脱出」というプロセスを経るため、昨年度までの研究では自然界の状態を完全に再現できているとは言えない。そこで次年度は、孵卵温度の影響に加え、脱出の有無が幼体の運動性等に与える影響を調べていきたい。また、これまでの孵卵温度の実験ではアカウミガメを対象としていたが、アオウミガメに関しても同様の実験を行う予定である。 その他に関して、平成29年度に得られたデータの確度を上げるため、引き続きサンプル数を増やす予定である。そして、2年間で得られたデータと既往研究の知見を基に温暖化がウミガメの性比に与える影響の全体像の把握・評価を行い、ウミガメの性比に関する適切な保全策の提案を行う。
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