研究課題/領域番号 |
17J07414
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳本 史教 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | アレスト / 脆性破壊 / 鉄鋼材料 |
研究実績の概要 |
平成29年度は鋼材における脆性亀裂伝播・停止挙動に大きな影響を与えると考える三次元効果についての検討を実施した.特に,板表面近傍に形成される非脆性破断部(サイドリガメント,シアリップ)の形成条件について,平板試験体を用いた実験的検討を実施し,その形成状態を確認した.この際,シアリップ厚さはワンショット3次元計測機を用いて計測している. また,温度一定型広幅試験を行い,高応力拡大係数における亀裂のアレスト特性の評価を試みたところ,未破断サイドリガメント厚さが閉口効果を考慮した実質的な駆動力に支配されることが分かった. 続いて,サイドリガメント/シアリップによる閉口効果の定量的評価を行うために,未破断サイドリガメントの形成状態を入力として陰解法を用いた三次元弾塑性有限要素解析を行い,局所応力の変化を観察した.その結果,未破断サイドリガメント厚さが閉口効果を支配するもっとも重要な因子であることが明らかになった一方で,未破断サイドリガメント長さの寄与は,未破断サイドリガメントが一定以上の厚さを有することが条件になることが分かった. また,一方で,予定を前倒しして弾塑性透明樹脂を用いた高速カメラによる伝播中の亀裂前縁形状の観察・継手構造への突入時の前縁形状の変化の直接撮影についても予備的検討に着手している.弾塑性透明樹脂としてポリカーボネートを採用しているため,透明度を上げるための表面仕上げ方法や,亀裂前縁識別のための光学的手法の検討(具体的にはシュリーレン法の検討)を実施しており,今後これら予備的検討の結果を踏まえ,試験片形状・実験手法の確立する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイドリガメント/シアリップ形成試験については予定通り実施し,亀裂伝播速度データ取得を含め完了している.しかし,一方で,当初予定していたApplication phase解析は計算コストが非現実的なほど膨大であることが判明したため取りやめ,計算コストの低減手法の検討を行っている.そのため,残りの期間でApplication phase解析を実施する見込みが立たない場合も考慮し,Generation phase解析による閉口効果の定量的評価を平成29年度中に実施しており,概ね計算は完了している. 一方で,本来平成30年度に実施予定であった弾塑性透明樹脂を用いた実験に着手している.すでに予備実験や冶具の設計を終えており,今後試験片形状の確定が早期に実施できる予定である.また,高速カメラによる撮影条件の洗い出しにをすでに実施しており,予備実験における撮影にも成功している. 以上のように,部分的に前倒しして研究が進んでいる一方で,一部研究については計算コストの面から別のアプローチを検討・実施しており,総合的にはおおむね予定通りに進んでいるものと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
現状の手法ではapplication phase解析を現実的な計算時間で実施することが困難であることが発覚したため,何らかの手法を用いて計算コストの低減が可能かどうか今後検討する予定である.また,有限要素解析による閉口効果の定量的評価をベースにして閉口効果のモデル化を行い,局所破壊応力理論モデルへの組み込みを行う予定である. 一方で,弾塑性透明樹脂を用いた実験については,予定より多少高コストであるが透明度を向上させる表面処理の実施が可能であることが分かったため,今後継続して実施し,定量的な評価ができるよう実験手法の精緻化を行う.また,これまでは平板試験片のみ使用していたため,今後は継手構造試験片の作成・実験実施を行う.
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