研究課題/領域番号 |
17J07440
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
ガラーウィンジ山本 香 上智大学, 総合人間科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | シリア難民 / 学校教育 / ライフコース / 紛争 / レバノン / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、難民生活における学校教育の長期的な影響を、シリア難民の事例から、ライフコース分析により明らかにすることである。2年目の本年度は、主に「ライフコースの意思形成および実現の過程で、就学がいかなる影響を及ぼしているのか」という問いについて明らかにすることを目標とした。2018年6-8月の3か月間、出産にかかる研究中断期間を経て、育児のため長期の海外渡航が困難になり、フィールドワークは2019年1月に行なった1週間程度のドバイ調査のみとした。現地調査以外の期間は、既存データの分析およびこれまでの研究成果の公表に専念した。 既存データの分析として、本年度は、特に昨年度レバノンにおいて実施した現地調査 の聞き取り結果について分析を進めた。その結果は以下の通りである。 レバノンに避難しているシリア難民の多くはシリア帰還を目指しているが、一方で現状では帰還への具体的な展望を見出すことも難しい。レバノンにおける生活はシリアとの連続性が高く文化摩擦は生じにくいが、レバノンへの定住を望む難民が少ないため現地社会への統合も促進されておらず、難民としての社会的な地位は確立されていない。そのような状況下で、保護者の多くが教育の重要性を強く認識している一方で、子どもの自己実現の過程における実際の教育の効果には懐疑的であり、「家に留まるよりはいい」という消極的な理由で就学を続けている。子どもの将来展望への具体的な道筋が見えない中で、教育は未来への架け橋としての役割を失った状態にある。その状況下で教育は、ある母親が「教育は私たちに貧困を与える」と語ったように、難民家庭全体に希望とは逆行した影響を与えている。このことから、将来展望への道筋を提示してこそ教育は難民生活における希望となりうるものであり、継続的な就学を促すためには、就学の先に子どもとその家族の未来を想像させることが必要であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の活動として、研究活動の計画段階では、レバノンおよびドイツで追加のフィールドワークを実施し、調査対象者の多様性を確保してより多面的に分析が可能となる資料収集を行う予定であった。しかし2018年6月の出産とその後の育児のため、海外に渡航しての調査が難しくなった。そのため、計画どおりに研究活動を行うことができなかった。しかし、国内での資料・情報収集および前年度までの調査結果とデータのより深層的な分析を行い、所期の目標であった「ライフコースの意思形成および実現の過程で、就学がいかなる影響を及ぼしているのか」という問いの解明に取り組んだ。また、成果の公表に関しては、研究論文3報(うち1報は査読あり)と研究発表2件(うち1件は査読あり)という想定以上の結果となった。これらの成果によって、所期の目標は達成されたといえることから、現在までの進捗状況として、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、本研究課題の最終年度であるため、今後は研究目的を果たすための最終段階として、「子どもとその家族が望むライフコースを促進/阻害する学校の効果はいかなるものか」という問いに取り組む。この段階では、個別のシリア難民の多様なライフコースのミクロな事例研究を通して、難民の教育をめぐるライフコースと、それに対して難民が運営する学校が及ぼす影響の連関を説明する、マクロな実証的理論の構築を目指す。具体的な研究内容としては、本年度までに明らかになった難民の個々のライフコースにおける就学の影響をまとめ、難民のライフコースにおける学校の効果のうち、難民の子供とその家族が望むライフコースを促進/阻害する要因をそれぞれ析出し分類する。その際、それぞれの要因の重複と関連性にも留意し、ひとつの要因の多面性の解明にも重点を置く。
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