平成31年度には人工βバレル構造の構築を単結晶X線構造解析によって明らかにしたが、種々の溶媒への溶解性が著しく低く、その溶液構造の解析には至らなかった。これは、細胞膜中に存在する天然のβバレルタンパク質と同様の挙動であった。そこで、令和元年度は、人口βバレル構造の有機溶媒への可溶化を目指した。 まずは、前年度から引き続き、核磁気共鳴分光法(NMR)によって溶液構造を検証することとした。人工βバレル構造を構成するオクタペプチド配位子にジエチレングリコール鎖を1あるいは2つ導入することで、バレル構造を可溶化できることを見出した。このβバレル構造は、クロロホルム/アルコールという比較的低極性の有機溶媒に可溶であり、溶液中でのNMR測定によって構造解析を行うことができた。 NMR測定の結果、可溶化したβバレル構造は、溶液中で2種類の構造の混合物として存在していることが明らかとなった。また、これら2つの構造間で、可逆的に構造変換していることも明らかとなった。さらに、2つのバレル構造の組成は、それぞれ6本及び8本のペプチド配位子から構成されるβバレル構造であることを単結晶X線構造解析によって明らかにした。 一般にβバレルタンパク質の溶液構造をNMR及び単結晶X線構造解析法を用いて解明することは困難であり、今回、2つのバレル構造間での構造変換という動的挙動を解明することは、化学的のみならず、生物学的にも極めて重要な知見といえる。
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