研究課題/領域番号 |
17J07480
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柴田 納央子 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | 腸管免疫 / 共生細菌 |
研究実績の概要 |
本年度は、腸管組織内共生細菌であるアルカリゲネス菌の形態変化に伴う共生破綻機序と腸管恒常性への影響を解明する目的で、アルカリゲネス菌の形態変化に伴う性状変化について、ラマン分光法を用いたラマン顕微鏡観察により解析した。 ラマン顕微鏡による解析では、測定対象に含まれる多種成分の分子構造を、非標識・低侵襲性で検出・識別することが可能である。アルカリゲネス菌のラマン解析を行った結果、フィラメント状への形態変化に伴いアルカリゲネス菌の菌体内にシトクロムcとプロピオン酸が蓄積し、一部が菌体外へ放出されることを見出した。シトクロムcは通常、細菌細胞膜や動物細胞のミトコンドリア内膜において、好気呼吸電子伝達系の電子供与体として機能しているが、ミトコンドリアから細胞質へ放出されると、アポトーシス促進因子として作用し、細胞外へ放出されると、炎症性メディエーター誘導因子として作用することが知られている。 これらの報告と一致し、樹状細胞に形態変化後のアルカリゲネス菌を感染させることで、樹状細胞の細胞質におけるシトクロムcが増加し、それと連動しアポトーシスや炎症性メディエーター(S100A8など)の発現が高率に誘導されることが判明した。以上の解析結果から、アルカリゲネス菌の共生破綻機序として、アルカリゲネス菌の形態変化に伴う菌体内シトクロムcの蓄積及び、シトクロムcの樹状細胞の細胞質での増加と、それに起因したアポトーシス誘導機構の存在が示唆された。 一方で、短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸は、制御性樹状細胞の分化を促進する一方で、過度に増加することで、神経細胞のミトコンドリア障害を誘発することが示唆されている。アルカリゲネス菌の形態変化に伴うプロピオン酸放出が、樹状細胞の分化誘導や腸管神経叢の形成に影響する可能性について、今後解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、組織内共生細菌のアルカリゲネス菌由来リポ多糖が、腸管恒常性維持に必須のIgA抗体産生を、樹状細胞上のTLR4受容体を介して認識により促進することを第47回日本免疫学会学術集会において口頭発表し、ベストプレゼンテーション賞を受賞している。 また、細菌由来のシトクロムcによるアポトーシス誘導についてはこれまでに報告がなく、日和見細菌であるアルカリゲネス菌の、宿主免疫系の機能不全による新規な共生破綻機序を明らかにすることが期待されるため。
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今後の研究の推進方策 |
マウス生体内における、アルカリゲネス菌の形態変化に伴う共生破綻機序を解明する目的で、アルカリゲネス菌由来シトクロムc、プロピオン酸の、腸管上皮細胞や樹状細胞、神経細胞への影響を解析する。
具体的には、野生型マウスに桿状またはフィラメント状の、GFP発現性アルカリゲネス菌を経口投与し、パイエル板内でのアルカリゲネス菌やシトクロムcの動態を、パイエル板切片のラマン顕微鏡観察により解析する。 また、樹状細胞や神経細胞への影響については、骨髄由来樹状細胞や腸管由来初代神経細胞へのシトクロムc添加、プロピオン酸添加により解析を進める。
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