研究課題
本年度は、組織内共生細菌であるアルカリゲネス菌の形態変化と病原性発揮機構について、シトクロムcを介した宿主細胞群のアポトーシスに着目した解析を推進した。昨年度までに、アルカリゲネス菌を過剰増殖させると、クオラムセンシングに仲介された、桿状からフィラメント状への形態変化が誘発されることを見出している。フィラメント状への形態変化に伴い、アルカリゲネス菌の菌体内外にシトクロムcが蓄積することを見出している。シトクロムcは通常、細菌細胞膜や動物細胞のミトコンドリア内膜において、好気呼吸電子伝達系の電子供与体として機能しているが、ミトコンドリアからシトクロムcが細胞質へ放出されると、アポトーシス促進因子として作用することが知られている。これらの報告と一致し、アルカリゲネス菌が定常的に共生している樹状細胞に、形態変化後のアルカリゲネス菌を感染させることで、樹状細胞の細胞質におけるシトクロムcが増加し、それと連動しアポトーシスが高率に誘導されることが明らかになった。本年度はさらに、アルカリゲネス菌の形態変化が、宿主腸管内に多く存在し、セロトニンによっても誘導されることを見出した。 以上の解析結果から、アルカリゲネス菌の共生破綻機序として、アルカリゲネス菌の形態変化に伴う菌体内シトクロムcの蓄積及び、シトクロムcの樹状細胞の細胞質への放出と、それに起因したアポトーシス誘導機構の存在が新たに示唆された。同研究内容は、2019年度 国際若手研究者シンポジウム “Rising Stars in Cutting Edge Immunology Research” において招待演者として発表している。さらにアルカリゲネス菌由来の膜小胞を介した生理活性分子の輸送についても共焦点顕微ラマン分光計やGC/MSなどの手法から検討を行い、膜小胞内に高密度の短鎖脂肪酸が封入されていることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本年度、アルカリゲネス菌の形態変化と病原性発揮機構について、招待講演として「Tokyo 2020 UCSD-IMUST International Joint Research Symposium」(2020年2月)及び、 「Rising Stars in Cutting Edge Immunology Research」 (2020年1月)において発表している。また、膜小胞を介した共生細菌由来生理活性分子の動態や、生理活性機能に着目した報告はこれまでになく、組織内共生細菌由来の生理活性分子の機能について、膜小胞を介した新たな機構を提示することが期待されるため。
アルカリゲネス菌の形態変化と病原性発揮機構について、アルカリゲネス菌由来シトクロムcと宿主細胞群のアポトーシス誘導に着目した論文投稿を行う。また、アルカリゲネス菌由来膜小胞の内容物について、ラマン分光分析や免疫学的・分子生物学的解析を進める。本解析過程では、アルカリゲネス菌の培養条件の違いや、膜小胞の質的変化に着目をした解析を行うことで、実際の生体内における膜小胞を介した生理機能の解明を目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Int.Immunol.
巻: 32 ページ: 133-141
10.1093/intimm/dxz071
International Immunology
巻: 8 ページ: 531-541
10.1093/intimm/dxz029