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2018 年度 実績報告書

フランス語圏カリブ海地域文学の言語・空間横断的研究―エメ・セゼールを中心に―

研究課題

研究課題/領域番号 17J07489
研究機関東京大学

研究代表者

福島 亮  東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2017-04-26 – 2020-03-31
キーワードエメ・セゼール / 脱植民地化 / カリブ海地域 / 第三世界
研究実績の概要

本年度は1950年代から1970年代のエメ・セゼールに焦点を絞り、セゼールの文学作品がどのような時代的・歴史的背景のもとで生成したのか研究した。特に本年度の研究で注目したのは、1960年代以降のカリブ海地域で行われた構造的移民政策による伝統的社会の喪失、および同時に世界的に運動となった脱植民化の波がセゼールの文学作品と世界観に及ぼした影響であった。
この点について、2019年2月に国際シンポジウムでフランス語による口頭発表(招待あり)を行った。この発表で論じたことは以下の通りである。従来の研究で明らかにされてきたことは、1960年代のアフリカ諸国の脱植民地化運動に対して共感を抱きつつもカリブ海ではそれが不可能であるとするセゼールの政治的挫折であった。文学作品の中では反植民地主義をうたい、それはアフリカ諸国や第三世界独立の精神的支柱の一つにすらなったにもかかわらず、当のカリブ海では脱植民地化が進まず、経済的・人口学的にフランス本国の影響力が強化された。その象徴とも言えるのが、若年層の人口爆発と高い失業率を理由にしつつ、実質的には脱植民地化運動を抑えるためにカリブ海地域で行われた構造的移民政策である。この政策により、カリブ海の若者たちはフランス本国への渡航手当を支給され、本国に労働者として渡ることになった。同時に本国の公務員や教員がカリブ海に派遣された。この移民政策をセゼールは「置き換えによるジェノサイド」と呼ぶが、実際、この政策によりカリブ海社会における人口構成・社会構成は大きく変わり、農業に基盤を置く伝統社会は壊滅の道を辿った。このような状況を前にして書かれたセゼールの詩作品には「喪失」や「途絶えた継承」のテーマが色濃く滲むようになる。しかし、このような状況にあってなお、セゼールは新たな「世界」の到来に希望を持とうとする。
以上が本年度の成果にあたる研究の概要である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度はフランス本国およびカリブ海地域を中心に資料調査ができたこともあり、研究は順調に進んだと言える。また、研究成果を国際シンポジウムで公表することができ、国際的な研究発信を行うことができた点は去年度には見られなかった進展である。同時にそれによってカリブ海地域を研究する研究者たちと国際的な交流を持つことができた。一方で、セゼールを中心にした資料調査はできているものの、それをより広い文脈、具体的にはアフリカ諸国や第三世界の文脈に接続することがまだできていない。この点はさらなる進展が必要である。

今後の研究の推進方策

これまでにも述べてきたように、当初の計画が1940年代のエメ・セゼールに限定して研究を行うものであったのに対し、実際に研究を進める中で見えてきたことは、対象となる時間幅を1980年代にまで拡張する必要はあることであった。というのも、当初の念頭にあった「アメリカス」という仮説的空間とセゼールの関係は、1940年代だけでなく、むしろ脱植民地化運動を経由して1980年代にまで続いていると考えられるようになったからである。2018年度はその点を考慮して1950年代から1970年代を扱った。最終年度となる2019年度は、1970年代から1980年代のエメ・セゼールに目を向けて研究していきたい。具体的には、セゼールがマイアミやケベックで行った講演活動の調査と分析である。また、2018年度はセゼールと演劇の関係について十分に論じられなかった。セゼールの演劇は第三世界運動と密接な関係にあり、調査が追いつかなかったからである。そこで2019年度は第三世界とセゼールの演劇の関係についても目を向けていく。具体的には、セゼールの戯曲と雑誌『プレザンス・アフリケーヌ』の関係を明らかにすることで第三世界におけるセゼール演劇の問題へとアプローチしたい。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2019 2018

すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [学会発表] Aime Cesaire et le Paris creole des annees 1940-1970, ou l'epoque du colonialisme au quotidien2019

    • 著者名/発表者名
      Ryo FUKUSHIMA
    • 学会等名
      Paris creole : son histoire, ses ecrivains, ses artistes, XVIIIe-XXe siecle
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 想像の地理学という仮説――1960年代のエメ・セゼールとアメリカスをめぐって2018

    • 著者名/発表者名
      福島亮
    • 学会等名
      マグレブ研究会2018年度第1回例会
    • 招待講演
  • [図書] 午前四時のブルーⅡ2019

    • 著者名/発表者名
      小林康夫ほか
    • 総ページ数
      120
    • 出版者
      水声社
    • ISBN
      978-4-8010-0342-2

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公開日: 2019-12-27  

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