研究課題
本研究では未破裂の脳動脈瘤に対するコイル塞栓術を施行する際、治療を効率的に行うための手法を数値解析の技術を用いて探索し、提案することを目的としている。今年度の主な研究成果として、実臨床データと数値流体力学による血流解析の結果を複数組み合わせて、脳動脈瘤の再治療を予測するモデルを統計学的に導出し、単体の因子のみを用いて予測する場合と比較して優位に予測精度が高いことを示した。また、コイル塞栓術時においてコイルの硬さや長さが脳動脈瘤内におけるコイル分布に与える影響、並びにコイル分布の差異が血流抑制に与える影響についても数値解析の技術を用いて調査した。コイルが硬いと脳動脈瘤の壁面付近にコイルが分布しやすくなり、コイルが短いとネック部分にコイルが分布しやすい結果となった。同時に、ネック付近の塞栓率を上げることで、効率的な血流抑制効果を得られることが示された。また、カテーテルの位置を脳動脈瘤の奥側か手前側かを位置変更することで、任意のコイル形状をコントロール可能であるとの結果が構造解析の結果より得られた。カテーテルの位置がコイルの分布に与える影響について調査した報告は少なく、実臨床において意図した位置にコイルを分布させるための目安としてカテーテルの位置を参考にできる点で将来的に有用となる可能性がある。以上の結果をまとめ、国際学術雑誌にて2報の論文報告を行った。また、国内会議にて2件、国際会議にて3件の報告を行った。このうち、1件の国際学会において研究内容が評価され、学会賞” Open Finalist in the 2017 EMBS Student Paper Competition”を受賞した。
1: 当初の計画以上に進展している
実際の臨床において治療した症例のデータを用いて、脳動脈瘤の再治療を予測できる可能性が示されたことは非常に大きな成果であった。また、構造解析と数値流体力学の技術を用いたコイル塞栓術のシミュレーションによって、コイルの長さや硬さが脳動脈瘤内でのコイル分布に与える影響や血流抑制効果について、まとめて報告を行うことが出来た。本研究の目的は「脳動脈瘤に対する効率的な治療方法」を探ることにある。現在までの研究成果は脳動脈瘤治療時の有効な指針になりえるものであり、この目的に大きく近づくものであった。また、患者固有の脳動脈瘤に対する解析を目指す上で、基礎形状の脳動脈瘤に対するコイル挿入計算と流体解析が完了し、結果を得ていることから、研究計画上の進捗率は50%程度であり、計画上順調に進展していると言える。
脳動脈瘤に対するコイル塞栓術のシミュレーションでは、特に構造解析の技術を用いたコイル挿入時の解析において大きな計算コストがかかることがわかっている。一方で、コイル挿入後の脳動脈瘤内の血流を解析するためには、何らかの手法でコイルを再現する必要がある。コイルの再現の手法として、前述したように構造解析の技術を用いてコイルの形状を厳密に再現する方法の他に、コイルをポーラスモデル(多孔質媒体)として近似して、血流に抵抗値を与えることでコイルの血流への影響を再現する手法がある。ポーラスモデルを用いた手法は計算コストの大幅な低減が可能であるが、コイルの形状を厳密に再現する場合と比較して、実際の流れを正確に再現できていない可能性がある。今後の研究では、両者の比較を行い、コイルを再現するのに最適なポーラスモデルの調査を行う予定である。これにより、コイル塞栓術後の脳動脈瘤内の血流解析を、計算コストを削減した上で行えるようになる可能性がある。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)
J Neurointerv Surg
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1136/neurintsurg-2017-013433
10.1136/neurintsurg-2017-013457
Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc
巻: - ページ: 3397-3400
10.1109/EMBC.2017.8037585
http://medicalengineering.jp/
http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/yamamoto/indexj.html