研究課題
本年度はFlow Diverter(FD)ステント留置術により治療された脳動脈瘤における血栓化予測を主な課題として研究を実施した.通常,FD留置により脳動脈瘤への血流が十分に抑制されると,脳動脈瘤内部が血栓化し,これによって脳動脈瘤の破裂リスクを下げることができる.一方で,FD留置後にも十分な血栓化が見られなかった症例も多数報告されており,その要因の一つとして血流による影響が考えられている.日本国内で認可,使用されているFDはMedtronic社のPipelineシリーズのみであることもあり,現在国内で臨床研究の対象とされているFDの殆どがPipelineに対するものであるが,国外ではその他のFDも使用されている.本研究ではドイツの医療機関との共同研究により,同国で開発されたFDであるAcandis Derivoシリーズを用いて治療した症例に対して,FD留置前後における数値流体力学による血流解析を実施し,脳動脈瘤内の血栓化に関与する要因を血行力学的観点から調査した.Derivoステントにて治療を行った脳動脈瘤に対し,ヴァーチャルFD留置前後での数値流体力学による血流変化の調査を実施した.治療された脳動脈瘤の6ヶ月フォローアップ後の血栓化の程度と数値流体力学の結果を比較したところ,血栓化しないもしくは部分的な血栓にとどまった症例では,完全に血栓化した症例と比較して,FD留置後における血流量の抑制効果が少なかった.FDステント留置後の脳動脈瘤内の塞栓には血行力学的な要因(血流量の抑制効果)が深く関与していることが示唆された.本年度は以上の研究結果をはじめとして, “Conf Proc IEEE Eng Med Bio Soc.”等の国際学術雑誌にて計7報の論文として公表した.また,国内会議にて計9件,国際会議にて計10件の報告を行った(共著含).加えて,招待講演にて計2件の発表を行い,日本機械学会誌にて『脳動脈瘤治療におけるCFDの臨床応用』に対する記事執筆を行うなどした.
2: おおむね順調に進展している
本年度はFDステントにより治療を行った際の血栓化予測を可能とするための数値的指標の調査を目的として研究を行った.2018年度中に合計10症例以上に対する解析を行うことを目標としており,現在までに12症例の解析が完了している.詳細な統計解析は行えていないが,進捗率は約90%程度であり,概ね順調に進展していると言える.また,本研究は脳動脈瘤に対するコイル塞栓術を施行する際に,治療を安全かつ効率的に行うための数値的指標を,数値流体力学や構造解析等の数値解析の技術を用いて探索し,提案することが主な研究課題であるが,コイル塞栓術に加えて,FDの治療効果についても調査を行えた事は大きな成果であった.本邦におけるFDの臨床適用が認可されて以来,FDを使用した脳動脈瘤治療に対する注目は高まる一方であり,適用症例数も年々増えつつある.一方で,日本において認可されたFDは現在のところMedtronic社製Pipelineシリーズのみであり,日本国内にて臨床研究の報告がなされているFDに関する研究の殆どがPipelineシリーズを対象にしたものである.世界的にはPipeline以外のFDも使用されているが,日本において認可されていないために臨床結果と合わせた研究報告がなされる事はほとんどない.本年度の研究ではドイツのUniversity Medical Center Goettingenとの共同研究を行うことで,Pipeline以外のFDにおける臨床上の結果を含めた研究を行えたことは大きな成果であった.すでに多数の臨床的,血行力学的な報告がなされているPipelineではなく,それ以外のFDにおける臨床上の効果と血行力学との関連を調査することによって,将来的にFDのメーカーや種類に依存しない,FD自体の基本特性について明らかにできることが考えられる.この研究成果は,今後日本においてもPipeline以外のFDが認可された際に,安全かつ効率的な治療を行う上での有効な指標の一つとして役に立つ可能性が高い.
コイル塞栓術並びにFDステント留置術のいずれにおいても,マイクロカテーテルと呼ばれる医療用の細い管を介してコイルもしくはステントを血管内や脳動脈瘤内へと留置する.そのために,マイクロカテーテルを脳動脈瘤まで誘導する必要がある.マイクロカテーテルの誘導は,まずガイドワイヤーと呼ばれるワイヤーを先行して脳動脈瘤まで誘導していき,マイクロカテーテルをガイドワイヤーに沿わせることで脳動脈瘤までマイクロカテーテルを到達させる.特にコイル塞栓術においては,マイクロカテーテル先端が脳動脈瘤内のどの位置にあるかによって,コイル挿入時の安定性が大きく変わってくる.具体的には,血管壁面にカテーテルを意図的に接触させることでカテーテルの安定性を高めつつ,脳動脈瘤の中心付近にカテーテル先端を誘導することができれば,その後のコイル挿入を安定的に施行することが可能となる.このような安定したカテーテルを得るために,執刀医らはカテーテル先端の形状を脳血管と脳動脈瘤の形に沿って形付け(シェイピング)している.しかしながら,実際の脳血管の奥行きやサイズ感を把握することは極めて困難な為,意図した位置にカテーテル先端を誘導することが困難な場合がある.今後の研究では脳動脈瘤へのマイクロカテーテル誘導を数値解析により再現する.数値解析の結果得られたマイクロカテーテルの形状と,実際の治療時に得られたマイクロカテーテルの形状を比較することで,計算の再現性を確認する.同時に,マイクロカテーテル先端が脳動脈瘤のどの位置に来やすいのかを可視化できるようにすることで,術前にマイクロカテーテルが誘導されやすい位置を把握できるような技法の開発を行う.この研究により,血管内治療における各デバイスが与える治療への効果だけでなく,そのデバイスを安全かつ効率的に留置できるようになる可能性がある.
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 10件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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巻: 印刷中 ページ: 1~7
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