研究課題/領域番号 |
17J07512
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
早川 朝康 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | supernova / failed supernova / black hole / accretion |
研究実績の概要 |
2018年度は、2017年度の研究成果の発表や、次の研究テーマに向けての計算コードの開発に従事した。具体的には、2018年6月にイタリアにて行われた、Nuclei in the cosmos meeting XIV でのポスター発表を行った。その会議の議論の中で、ガンマ線バーストだけではなく、failed supernovaと呼ばれる、爆発に失敗した大質量星についての研究に応用できることが判明した。 その議論を元に、failed supernova からのX線放射に着目し、計算コードの開発を行ってきた。具体的には、一次元輻射流体力学計算コード、SNEC (Morozova et al. 2015)を元にチューニングを行い、またX線放射をポストプロセスで見積もることができるコードを開発した。 その結果として、爆発に失敗した大質量星でも、普通の超新星の0.1から1%程度の明るさで光り輝き、その後に中心のブラックホール周りからのX線放射が見える可能性が示唆された。現在、この結果を元に査読論文雑誌への投稿を2019年前期にできるように執筆中である。また7月にロシアで行われるサマースクールや秋季天文学会での発表も予定している。 これらの活動の他に、アウトリーチ活動にも尽力した。2月には出身地の小学生や、一般の方向けに、講演会を行い、地域への還元を行った。3月にはスーパーサイエンスハイスクールに採択されている山梨県立韮崎高等学校での研究会で、研究内容の紹介を行った。昨年度に引き続き、京都大学付属病院に入院中の子供達に向けた、観望会やお話会と言った活動も年に4回(4月,7月,11月,2月)と行った。2019年度もこのようなアウトリーチを引き続き行う予定であり、8月にはJSPS外国人研究員 Roberto Iaconi 氏と香川の高校へ伺う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは、ガンマ線バーストを説明するcollapsarと呼ばれるモデルの計算を行ってきたが、現在はそれを応用して、failed supernova からの放射を計算している。Hayakawa & Maeda (2018)では、ガンマ線バースト付随の超新星爆発を起こすためには、回転が極端に早い親星が必要であるとわかった。一方、回転の遅い星は、十分に爆発エネルギーを稼ぐことができずに、ブラックホールに潰れてしまうとも判明した。 しかし、近年ではブラックホールに潰れる際に、大きく膨らんでいた星の外層の一部が放出され、暗い超新星のような見え方をすると示唆されている。このように、爆発に失敗して、中途半端な爆発を起こしてしまう現象は、failed supernova と呼ばれている。failed supernova では中心にブラックホールが残される可能性が高いため、重力を振り切れずにブラックホールに降着した物質がエネルギーを解放しX線で明るく輝く可能性がある。 現在この現象に着目し、可視光やX線でどのように光り、観測可能であるかを一次元輻射流体力学計算を中心に行っている。 輻射流体力学計算にはSNECを用いて、その後ポストプロセスで中心のブラックホールからの放射を計算している。この計算には、独自開発のコードを用いた。X線がどの程度吸収され、実際にどのように観測されるかまで議論を行っている。 その結果として、ブラックホールに物質が降着する際に、一部が噴出し巻き上がり、これによって最初に放出した物質が押し広げられる効果が重要であることがわかった。この効果で、中心のブラックホール周りの放射が数週間から数ヶ月かけて透けて見えてくることを新たに発見した。この結果は現在、査読論文誌への投稿を2019年度前期までにできるように論文執筆中である。また7月にロシアで行われるサマースクール等で発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、計算結果は一通りまとまり、論文執筆中である。2019年前期中に投稿することを第一目標としている。またこの結果を海外や国内での研究会等で発表することも視野に入れており、7月にロシアで行われるサマースクール、9月に行われる秋季天文学会での発表予定である。 次のステップとして、このfailed supernova の多角的な解明に取り組んでいく予定である。現在、研究の対象としているfailed supernova の候補として、赤色超巨星を考えているが、この星は半径が大きいため、爆発前に質量放出することが示唆されている。その質量放出により、ダストが形成される場合、星自身が濃い塵の雲に覆われ、星自身が隠される可能性がある。これによって、崩壊せずとも星自身が見えなくなる failed supernova の可能性を調べる。爆発前の質量放出は、連星系と単独星系では違うことが示唆されており、それらによる違いを調べることで、failed supernova が起こり得る環境も判明するかもしれない。 これ以外にも、中心のブラックホールからの放射は、現在ブラックボックスとして計算を行っているため、さらに現実的なモデルの提案が必要である。さらにブラックホール周りから噴出した物質が最初に放出された物質と大きく相互作用すれば、ブラックホール周りの放射にさらに強めた放射が見える可能性がある。 failed supernova はこれまで星の長期のモニタリングにより候補天体が見つかっているが、今回の計算結果より、少し暗い超新星を追観測すればX線で見える可能性があるとわかった。数年以内には、FORCEと呼ばれるX線衛星機器が運用開始予定である。このようなX線観測機器を用いた観測への提案をすることで、今後ブラックホール形成の現場やfailed supernova の多波長観測もできると期待される。
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