研究課題/領域番号 |
17J07566
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
中井 公美 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | プラズマアクチュエータ / バリア放電 / 流体制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,3電極プラズマアクチュエータの実用化を目的とし,ジェット推力を損なうことなく偏向を防ぐための電圧印加方法の提案および検証に取り組んでいる.本年度は,数値シミュレーションの妥当性検証を行った上で,シミュレーションによる解析結果に基づいてAC電極の印加電圧波形を提案した. まず,電子,正イオン,負イオンを考慮した3流体モデルに基づく放電プラズマシミュレーションの妥当性検証を行った.アクチュエータの性能に影響すると考えられる各条件(誘電体の厚さおよび誘電率,交流電圧のピーク値および周波数)を定量的に一致させたシミュレーションと実験を実施し比較した.その結果,詳細な性能特性を定性的に再現するためには,実験より高電圧を印加する必要があることを明らかにした.これは,プラズマシミュレーションでは印加電圧に応じて放電モードが変化し,高電圧を印加しストリーマ型放電が多数発生する放電モードにおいて,放電電流波形の特性を定性的に再現できるためである. 次に,電圧印加方法の設計に着手した.プラズマシミュレーションにより作動メカニズムを解析した結果,3電極プラズマアクチュエータの飛躍的な性能向上を担うのは,DC電極が生成する体積力であることが明らかになった.そこで,ジェットの強さを損なわずに垂直方向への偏向を防ぐため,DC電極が生成する体積力を強化し,むしろAC電極が生成する体積力を抑制するコンセプトを提案し,AC電極の交流電圧波形の調整によってDC電極およびAC電極双方の体積力生成をコントロールするアイディアを提案した.AC電極に,電圧の負勾配区間を短くし,すぐさま正勾配に切り替える鋸歯状波形の電圧を印加することで,DC電極側の体積力を強化しAC電極側の体積力を抑制できることをプラズマシミュレーションから確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,本研究の要となる放電プラズマシミュレーションの妥当性を,実験結果との定性的および定量的な比較により検証することで,プラズマシミュレーションが再現可能な範囲や,シミュレーション結果の信頼性確保に必要な計算条件を確認することができた.その上で,プラズマシミュレーションにより解析した確かな物理メカニズムに基づき,DC電極側の体積力生成を強化しAC電極側の体積力生成を抑制できるAC電極の印加電圧波形を提案することに成功した.提案波形により,従来の3電極プラズマアクチュエータと同程度の出力の水平方向ジェットを生成可能であることを,放電プラズマと流体運動をカップリングした数値シミュレーションから確認できている.現在,提案波形の有効性を実験的に実証するための実験装置の整備および予備実験を進めるとともに,印加電圧波形の最適化に向けてプラズマシミュレーションによるパラメトリックサーベイを実施中である。以上から,本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
まず,前年度に提案したAC電極の印加電圧波形の有効性を実験的に実証する.3電極プラズマアクチュエータを静止流体中で駆動し,PIV計測による流れ場の可視化を行うことで,ジェット偏向の有無およびジェット推力の観点から提案波形の性能を評価する.ただし,これまでの予備実験により,3電極プラズマアクチュエータのジェット挙動は形状パラメータおよび駆動パラメータに大きく影響されることがわかっており,パラメータを適切に設定することが求められる.そこで,前年度から進めている放電プラズマシミュレーションを用いたパラメトリックサーベイによる知見をもとに,シミュレーション結果の実証に向けた適切なパラメータ設定を模索する. また,実験的実証と並行して,放電プラズマシミュレーションの精度向上に向けた数値モデルの改良に取り組む.前年度では現状の数値モデルの妥当性検証を実施したが,数値モデルに用いている仮定や近似,考慮するプラズマ粒子種・反応の影響はいまだ調査されていない.数値モデルを改良することで,シミュレーション結果の定量的な再現性を高められる可能性があり,印加電圧波形の設計においてより確かな知見を得られると期待できる. 最後に,AC電極の印加電圧波形の最適化を図る.前年度に提案した印加電圧波形はごくシンプルな設計であり,波形の最適化によりさらなる性能向上の余地がある.改良した数値モデルを用いた放電プラズマシミュレーションと実験で密に連携をとることで,より効果的に働く波形を設計する.
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